王子様とブーランジェール
桃李が、頑張ってる?
桃李が、成長してる…?
いったい、どういうことだ?
アイツ、何か頑張ってるのか?
…いや、心当たりは無きにしもあらず。
最近で言えば、学祭のステージのダンスの件だ。
ペナルティ入部で忙しくなるにも関わらず、家でも練習頑張るからやりたいだとか。
学校祭の練習があるとか、糸田先生に言えちゃうとか。
…昔の桃李なら、ヘタレ気質なもんだから、こんなステージ発表なんてやるとか自分から言い出すことは、まずない。
言いたいこともはっきりと言えないタチだからな。
キャパシティもそんなに大きくないので、複数のことをいっぺんに出来ない。
『こんなの出来ないーっ!』と、パニックになって、泣いて周りに迷惑かけて終わり。
そんな桃李が、頑張る…?
いったい、何があったというんだ。
どんな心境の変化だ?
桃李の『変化』と呼べる出来事は、これだけじゃない。
違和感を感じた出来事はいくつかあった。
売店で高瀬に手を上げられた時も、自ら謝罪をしに行ったり。
お詫びとして、高瀬にサンドイッチとパンを差し入れるだなんて。
あんなゴリラみたいな強面の男には怯えるばかりだったのに。
他にも、先程、恐ろしい狭山に反論していたり。
パニりかけていた時、松嶋に落ち着かさせてもらって、話していたこともあったな。
少しずつ、自分の言いたいことが言えてきているような感じになっている。
パン作り以外のことにも目を向けるだなんて。
なぜ、桃李が少しずつ変わってきているのか。
何かきっかけでもあったのだろうか。
それは、自分から望んだことなんだろうか…。
桃李の変化。
…これが、俺が一番ザワザワと感じていたことかもしれない。
そして、今もまだ。
ザワつきは治まらず。
「メガネが…メガネじゃなくなってる…」
「ホントだ…しかもあんなに可愛いなんて…」
「メガネ外したら超美少女って、ホントにいるんだ…」
夕方の部活の時間。
糸田先生の監視のもと、グラウンドの草刈りをしている桃李を、先輩たちは茫然と見つめている。
桃李の外見の急激な変化に驚いているようだ。
「女って眼鏡を外しただけであんなに変わるもんなの?」
「いや、天パがストレートになってるでしょ。坂下プロデュースだって?」
「呪いかけられてたんじゃねーの?」