王子様とブーランジェール




「寒いのか?」

「えっ?い、いや、だ、大丈夫」



大丈夫ったって…。

暑がりの俺には涼しくてちょうどいい寒さだけど。

寒イボたってて、肌さすってるとか、明らかに寒いんじゃねえか。

女子って体冷やしたらダメなんだろ?

と、母親が姉達にいつも言ってる。




「…俺、もう帰るから、中入れ」

「え、あ、あの…」

「あ。明日からは、あのびっちびちでキツめのブラウス着てくんなよな?今までの自分の制服着てこい。あと、外出する前には必ず鏡で全身チェックしろ」

「あ…うん」

「じゃ。おやすみ。また明日」



軽く手を上げて、背を向けて歩き出す。

あっさりとお別れした。





でも…ほんの数分だけど、学校以外で会えるとか…ちょっと嬉しかったりして。

これが幼なじみのメリットだよな。

家の周りで気軽に会える。




それにしても、あのルームウェア姿はかわいかった…。

『俺んち…来る?』

とか、言いそうになるじゃねえか!

しかも、あの新しい見てくれで、かわいさ5倍増しだ!

って、俺も結局、新生・桃李の方がいいってことかよ…。

他の連中と一緒か…。



一人で勝手に盛り上がり、勝手に落ちる。

もう、苦笑いしか出てこない…。




「ま、ま、ま…待ってっ!」



え?

不意に呼び止められる声を耳にする。

思わず立ち止まって振り返った。



「…わっ!」



振り返ると同時に、勢い良く突進してきており。

俺の左腕にドン!と、ぶつかってくる。

ぶつかってきた反動で、体が少し後ろに揺れた。




えっ…。




「あいたたた…」

桃李はうつむいて、左手で額を押さえている。

突進してきた勢いで、顔面をおもいっきりぶつけていた。

「…なんだおまえは!」

「いたたた…ご、ご、ごめん、で、でも待って…」

右手は俺のタンクトップの裾を掴んでいた。



な、何なんだよ急に!

急にぶつかってきやがって!

距離感はないのか、距離感は!

急に…。

飛び込んできやがって…。

何かと思った…。



今もタンクトップの裾が掴まれていて…距離が近い。

その距離のまま、こっちをじっと見つめている。




見つめられている…!



な、なぜに…!



この状況に、無理矢理胸が高鳴ってきて。

心中、おもいっきり動揺している。

なぜこのようなことに…!



「な、な、なつき、待ってっ!」

「…もう待ってるだろ!」



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