王子様とブーランジェール




「あ、あ、あのね、あのね、わ、わ、私」



桃李が何かを一生懸命しゃべろうとしている。

しかし、どもっていて、なかなか先に進んでいない。



「何だよ!落ち着け!」



動揺と緊張がにじみ出てしまったのか、思わず声を張り上げてしまった。

あ…ヤバい。それはダメだ。キツく当たったら。

また、桃李をしょんぼりさせる…。



「あのねっ…!」



だが、当の本人は、俺の張り上げた声なんか構っちゃいなかった。

引き続き俺のことを必死に見ている。

いつもの泣きそうな目ではなく、必死な目つきだ。



いつもと違う…何だ?



「わ、わ、私…言うから。た、た、高瀬センパイに…言うから」



「…えっ?!」



高瀬に?何を?

いつの何の話だろうか。

ちょっと記憶を辿っていたが、そんなの待たずに桃李は話し続ける。



「た、た、高瀬センパイのこと、ち、ちゃんと断るから…」

「…は?断るって何を?」

「い、一緒に出かけられませんって…」



あ。あぁ。

デートに誘われていた、あの話か。

大会終わったら二人でどこか行きませんか?と、言われていたな。そういや。

桃李のペナルティ入部と眼鏡騒ぎで、少し忘れていた。




「…た、高瀬センパイは、優しくしてくれるけど、二人きりで出かけるのは恐いし…な、何したらいいかわからないし、顔、ゴリラみたいで恐いし…」



そのセリフに、ブッと吹き出してしまった。

『ゴリラみたいで恐い』と!

高瀬…桃李にまでゴリラみたい言われてるぞ?

おまえ、終わったな。

ザマミロ。



「ぶっ…うくく…くくっ…」



ツボに入ってしまい、吹き出してしまったら最後。

笑いが止まらなくなってしまった。



「夏輝、何で笑ってるの?」

「いや…ゴリラ、なぁー?ゴリラ。高瀬、ゴリラみたいだもんな…」

「あ、う、うん。ゴリラ…」

また吹き出してしまった。



桃李はきょとんとしている。

俺、一人で何笑ってんだか…。

その笑いは、まさに悪魔の笑い。

狭山みたいに「クックッ…」と、笑い方を変えてしまう。

だって、好きな女子にまでゴリラ言われている高瀬の哀れさといったらありゃしない…!

最高だ…!



「…それに、今はサッカー部とか、学祭で忙しいから、そこまで考えられないし…って言うからちゃんと」

「へぇー?『ゴリラみたいで恐い』も高瀬本人に言うの?」

「そ、それは言わないよ!失礼でしょ」

言え。ぜひ言ってくれ…!

高瀬の落ち込む姿を、クロワッサン食べながら見たい…!




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