王子様とブーランジェール
「じゃぁーん!衣装到着ーっ!」
それから2日後の木曜日。
朝の教室で、松嶋が女子たちの目の前で御披露目したもの。
それは…。
「わぁー!ホントにあったの?!」
「引っ張り出すとか、すごくない?」
「色、かわいいね!」
短めのタンクトップに、ヒラヒラとしたプリーツの入ったミニスカート。
チアガールの衣装。
段ボール3箱に分けられて登場。
中には何枚も何枚も黄色とピンク、二種類の同じ衣装が入っていた。
次々と中から引っ張り出して、その衣装を見る女子たち。
みんな揃って『可愛い!』だの何だの、黄色い歓声が次々と上がり、テンション上がってる…。
「この学校で一番勤続が長い糸田さんに、かつて使っていたチアガールの衣装がないか聞いてみたのよ!そしたら…ありましたっ!ありましたとさっ!」
松嶋はドヤ顔で、女子たちの前で一言述べている。
女子たちは一斉に『すごーい!』と歓声をあげた。
「ちなみにお直しも終わっておりますぜぃ!りみ委員長と、真奈ちんと頑張りましたぁーっ!スカート、超短めだぜぃ!男子悩殺間違いなし!」
松嶋の横では、黒沢さんと菊地さんが『イェーイ!』と、ピースしている。
十数人分、全部?すごいな。
「理人、見せて見せて」
すでに理人の手に渡っている、その衣装をチラッと横から覗く。
…ぶっ。ピンクだ。ピンク色のコスチューム。
胸元には『SEITEN』と、ロゴが入っている。
サッカー部のユニフォームのロゴと一緒だ。
うちのはピンクじゃねえけどな?
「理人、おまえ、ピンク着るのかよ…」
「何笑ってんの。可愛いじゃん」
理人はそう言うが。
マジ、自分に白羽の矢が立たなくてよかった…!
「うわっ。おまえのだけデカっ」
「ちゃんとサイズ測って直してくれたんだって…ね?桃李?」
そう言って、理人は隣にいる桃李に話を振る。
だが、ヤツは…。
「………」
無言…。
と、いうよか。
理人の隣で、立ったまま寝てる…。
直立不動のまま。
気持ち顔を上に向け、口が半開きだ。
白目むいてる。こ、恐っ。
絶句…。
すごい技術を身につけたな。
「…桃李?」
理人が恐る恐る声をかけると「ふがっ!」と、体をびくつかせて、辺りを見回す。
「…え?あ?あ?」
寝起きの挙動不審だ。
「桃李、眠いのか?」
理人が心配そうに顔を近付けるが、慌てて首を振っている。
「う、うん、ううん!だ、だ、大丈夫!寝てない!眠くないよ!」