王子様とブーランジェール
でも、おまえはよくやったよ。
おまえなりに頑張ったと思うけど。
「…だから、迷惑じゃねえって言ってんだろ」
心の中では、素直なことを思っているんだけど。
やっぱり、まだ照れ臭くて。
こんな一言が精一杯で。
ストレートな事を言いたくても、喉の奥で止まってしまう。
でも。
「うん…ありがと」
そう、一言を返してくれるだけ、有難いなんて思う。
「もう、あれはおまえじゃ無理っぽいわ。バカ。バカすぎるバカゴリラ。今度俺が叩き潰しとく」
「えっ!ち、ちょっと暴力やめて…ち、ちゃんと私から言うからっ」
「無理だ。やめとけ。さもなくばおまえもメスゴリラにされるぞ」
「メスゴリラって…」
あれから…ちょっとだけ考えて、ちょっとわかったことがある。
桃李が変化と成長を遂げて、俺の知らない桃李になってしまうことを恐れているんだったら。
…じゃあ、知らない桃李だと思わないように、しっかりと追い掛けていけばいいんじゃないのか。
しっかりと、目を離さずに、見つめていけばいいんじゃないのか。
置いていかれると思うんだったら、置いていかれないようなスピードでどこまでも追い掛けていけばいいんじゃないのか。
やだ俺。本当のストーカーみたい。
…じゃなくて。
そうやって、しっかりと追い掛けていけば。
向いている方向がわからない。
頑張りたいと言うその理由がわからない。
…それも徐々にわかってくるんじゃないかな。
だなんて、思えてきた。
本当に、簡単なことだった。
「あ、あと…今日の朝のこともご、ごめん…」
「『ごめん』が多いな」
「だ、だって…私、朝のこと全然覚えてなくて…」
「あれだけ爆睡してりゃ覚えてないだろ。午前中いっぱい保健室で寝やがって。だいたい睡眠時間取らなさすぎだろが。パン焼いてる場合じゃねえ」
「ご、ごめん…」
ホント、見てらんない。
たまに暴走するから、ほっとけない。
ドジの危なっかしさだけではなく、暴走しすぎで死んでしまう恐れも出て来てしまった。
やっぱり…だからこそ、守ってやりたいとか。
そんな気持ちも変わらない。