王子様とブーランジェール
「…あ、狭山さん!」
ふと、顔を上げた。
だが、しかし。
「…ぎゃあっ!」
桃李の汚い悲鳴が響いた。
と、同時に。
手からかごを離してしまい、あっという間にかごが倒れ、あっという間にボールが四方八方に散らばってしまった。
…あぁっ!やっぱり、お約束!
よそ見しやがって!
「ああぁぁっ!ぼ、ボールがっ!」
「…何やってんだおまえはぁっ!」
もう、見てられない。
たまらず駆け付けてしまった。
散らばったボールを拾い集める。
「桃李いぃっ!よそ見するな!もしくはそんな重たいもの一人で持つなああぁぁっ!」
「ご、ごめんなさいぃっ!」
せっせと二人で集めて、ようやく全てかごに納める。
もう、見てられん。
まだ距離はある。あと一回同様のことをやりかねない。
そのかごを両手で持ち上げる。
速やかにソフトボールのグランドへ足を進めた。
「夏輝!夏輝!私が持つよ!」
「いい!おまえは!この距離だとあと二回は同じことやるぞ!いい!俺が持ってくから!」
「いいのにっ!」
そう言って桃李は、俺の隣に来て、手に持ってるかごを奪うように引っ張る。
その際、ちょっと手と手が触れた。
…何っ!
「バカ!引っ張るな!」
「もう!いいのー!」
かごを引っ張り合っていると、そのうち黒沢さんがこっちに気付いたのか、走ってやってくる。
「ごめんごめん。私と一緒に持つか。竜堂くん、手伝わせてごめんね」
「いいのに。大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」
そう言って、黒沢さんと二人でせっせとかごを持っていってしまった…。
ちっ。持っていってやってもよかったのに。
でも。
(手、触っちゃった…)
ちょっとドキドキしたじゃねえか…。
ーーーいえいえ、王子様。
それは、多少当たっただけでございます。
この程度で何をドキドキときめいているのでしょうか。
完璧イケメンな王子様でありますが。
愛するブーランジェールとの本気の恋愛に関しては、随分とイタくて、口論すら小学生レベルになってしまいます。
こんな感じで片想いも早5年。
本当にイタくて、なりません。
この数ヶ月、二人の間にはさまざまな騒動がございましたが。
二歩程度、進展したともいえるでしょうか。
さてさて。この純情ラブストーリー。
これから始まる学校祭では、騒動続き。
そして、祭りが終わる頃にはとんでもないことに…。
そんなお話。