王子様とブーランジェール
「…私は、竜堂に一票だな」
窓の外のグラウンドの光景を見ながら、奈緒美は一言、呟いた。
「…マジか。実は私もそう思った。夏輝に一票」
「へぇー。潤も」
「アイツ、何か華があるんだよねぇ…。なんつーか、どこにいても目立つみたいな?ただ立ってるだけで華やかっつーか。中学の時からそう」
「背中に薔薇背負ってそうだもんね?常に」
「薔薇かぁ」
窓の方を見ながら、二人で笑っていた。
「ちょっとぉー!笑ってないで真剣に考えてよ!その話、どうなってんの?」
「まあまあ優里沙。落ち着け落ち着け」
「学校祭は今週末なのよ?!…もし、海里がミスターになったら、冗談じゃないわよ!何とかしてよもう!」
まったりとした空気の中で、一人でカリカリしているのは、優里沙。
周りと温度差あり。
「何でそんなに嫌なの。ミスターが彼氏だったら、鼻高々じゃない?」
「まゆり、あんたわかってない!」
「…え。何で」
「ミスターになれば、ファンに追いかけ回されたり、言い寄られたり、日常が一変するのよ?!ファンの女子をかわす器量、海里にあると思う?!気弱でヘタレな海里にミスターが勤まるワケがないじゃない!」
「おー。恐」
「自分のカレシ、ヘタレって言ったね。言ったね」
「で、自分もカリカリして嫉妬しちゃって嫌になるから、優里沙は何としても木元くんをミスターにしたくないんだ」
「そぉーよっ!!もしミスターになってごらんなさい?学校生活めちゃくちゃよ!冬の全大目指してんのに、それどころじゃなくなるわよ!」
すると、菜月が相棒のパソコンを開いて、隣にいるエリに問いかける。
「それに…私達も困るしね?『先代からのミッション』がありますから。新しいミスターは相応の人でないと。ね?エリ?」
「………」
エリは無言。
奈緒美は窓から離れて輪の中に戻ってきた。
「確かに。木元がミスターだったら、モチベーション上がらないな」
「…でしょっ?でしょっ?…あんたたち『残党』だって、先代ミスターからのミッションを遂行するのに、海里がミスターになったら、困るワケでしょ?」
「困るっていうか…」
「優里沙が言うセリフかい…」
そう言いながら、潤は隣で苦笑いをしていた。
「…で、おまえらどうする?」
しばらく黙っていたエリが、ようやく口を開いた。
先に答えたのは、菜月。
「私もナツキくんに一票。ナツキくんは、先代とどこか似た雰囲気があります」