王子様とブーランジェール




来い!ったって、どうすればいいのか。

首を傾げる。



『壁ドンしたら胸キュンするセリフ吐けよ!』

『シチュエーション大事だぞ!』



セリフ!な、何を言えばいいんだ?



その時。二番目の姉ちゃんと昨日一緒に読んだ漫画を思い出した。

確か、壁ドンシーン、あったような気がする。



こんな感じだろうか。



陣太の目の前に立つ。

顔を近付け、両手をバン!と音を鳴らして壁につき、退路を塞いでやる。

俺より身長の低い陣太を見下ろしながら。

マジな顔を作って。



「…逃がさねえ。ホイホイ帰すかってんだバーカ!」



漫画のセリフまんまパクりで言ってやった。



「………」



陣太は無言でキョトンと俺を見ている。



「ぶっ…」



横から見ていた理人は、吹き出した。

咲哉も笑いを堪えている。

そのリアクションを感じて一気に恥ずかしくなる。



『…おい!何笑ってんだ!』

『ぶはははは!何そのセリフのチョイス!らしいな?らしすぎるわ!ぶはははは!』

『ぶっ…まさに暴君殿様!あはははは!』

理人が大声で笑ってる…珍しい。

って、そんなに笑えた感じなの?胸キュンじゃなくて、笑っちゃうの?!



だが、壁ドンやられた陣太は。



『いや…あの…何か、わかった』



両手を顔にあてて、モジモジしている。



『夏輝の顔、かっけぇ…ドキューンときたわ』



…何、照れとるんだ!この男子!



『イケメンがやると、効果増しってか』

『マジ?お、俺もやられてみる!やられてみたい!』

ハイハイ!と手を挙げる咲哉。

『じゃあ今度は理人がやれば』

さりげなく理人に振ってみる。

しかし、ヤツは挑戦的な態度だ。

『いいよ?…夏輝に勝つ自信あるな?』

『はぁっ?!勝敗あるかこんなもん!』

なぜ、そんなに自信満々?

こいつ、百戦錬磨だからな。



『動画。動画撮るべ?』

『動画?』

陣太はスマホを取り出した。

そして、咲哉に渡す。

『目線だ。自分の目線に合わせて動画を撮れ。声出すなよ?』

『お、おう…は?声?』



そして、今度は咲哉が壁を背にして立った。

スマホのカメラを自分の目線に合わせて、理人に向ける。



ゆっくりと近づき、壁に軽く両手をつく。

咲哉の持っているスマホのカメラを、じっと見つめながら顔をゆっくり近付けて、涼しげなスマイルを見せていた。



『…捕まえた』




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