王子様とブーランジェール
…やべえ!面白ぇ!
何が『捕まえた』だよ!
何を捕まえた?アヒル?カブトムシ?
ツボに入ってしまった。
『ぶはははは!…何だよそのセリフ!捕まえた?漫画の読みすぎか?おいぃ!理人、キモっ!キモいわー!』
『いいや。実体験』
『………』
実際、女子にしたことあるのね…。
誰に?
『…うぉっ!これ、見てみろよ!理人かっけぇ!』
咲哉は、スマホを見て喜んでいる。
今の録画した壁ドンシーンを再生していた。
四人で覗きこみ、再度、再生。
理人が迫ってくる!
理人のスマイルが迫ってくる…!
カメラのアングルから、実際、理人に壁ドンされているような撮り方だ。
『ぶはははは!何だこれ!何だこれ!』
『すげえ迫力だ!理人のスマイル、ズキューンときたわー!』
『やべえ!チューしそう!ぶはははは!』
またしても、ツボに入る。
全員で腹を抱えて笑い転げる。
『じゃあ、壁ドン対決は俺の勝ちだねー?』
理人は笑いを落ち着かせながらも、さりげなく勝利宣言をする。
だが、笑い転げながらも、負けず嫌いの俺はイラっときた。
『…はぁっ?!何でおまえの勝利なんだよ!』
『だって夏輝のは威嚇行為だろ?俺のソフトな壁ドンの方が、絶対胸キュンする』
『何だと!…もう一回だ!俺のヤツ動画撮ってねえもん!比較しようがないだろが!…おい陣太!もう一回やるから俺の撮ってくれ!』
『わかったわかった』
非常にどうでもいいことなんだけど。
理人に勝利宣言をされて、火が着いてしまった。
もう一回、チャレンジ。
記憶を振り絞って、姉ちゃんの漫画の別の壁ドンシーンを思い出す。
『何、考えこんでんの?』
『漫画。漫画思い出してる。冬菜の読んでた漫画』
『冬姉ちゃんの少女漫画?…あのなぁ、夏輝。こういうのは、漫画思い出すより妄想がいいんだぞ?』
またしてもぶっと吹き出して、理人はバカにしたように笑う。
『はぁっ?妄想?』
『相手がそこにいると見立ててやるんだよ。例えば、夏輝なら桃李とのラブラブライフを妄想して…』
『ばっ!…おまえ!この!』
桃李とのラブラブライフを妄想?
…考えただけでも、恥ずかしくなるわ!
おまえ、俺を再起不能にする気か!
しかし、恋愛スキルの低い俺。
結局、理人のアドバイス通りに走ってしまう。