王子様とブーランジェール






「…で、今日はこれ!」



そう言って、陣太がカバンから取り出したものは、チョコレート。

箱のアーモンドチョコレートだった。



「これ?これをどうすんの」

咲哉が、チョコレートを手に取って眺めている。

「これをあーんしてやるシチュエーションだっつーの。夏輝が」

俺が?

女子に?

チョコを食べさせてやるってか?

「…だいぶエスカレートしてない?」

「ここまできたら、行くとこまで行っちゃえよ」

「………」



そして、陣太の作ったシナリオ通りに、撮影開始。



『…あ、おつかれ。…何か疲れてる?』


そして、チョコレートを差し出す。


『…食べる?』


咲哉はスマホのカメラを持ったまま、俺の向かいに座ってくる。

俺は、チョコレート一粒取り出して見せた。


『…頑張ってるから、ご褒美な?』



そして、スマイルを作って見せて。

実際咲哉の口に入れてやる。



『…うまい?』



はい、カット。




「…夏輝は、マジ顔もかっけぇけど、やっぱスマイルの方がとろけるな」

咲哉はスマホをいじりながら、口に入ったチョコをバリバリ食べている。

「そうか?」

「どう?見せろ見せろ」

三人でスマホを覗きこむ。

「やっぱ鉄板は安全パイだな?…ちょっと偉そうな感じがウケるわ!ぶはははは!」

「ぶはははは!ご褒美!ご褒美だとさ!…自分じゃねえみたい!…笑える!笑える!」

「しかし、よく撮れてんな!カメラ良い仕事してんな!ぶはははは!」

「監督の腕のたまものですって!ぶはははは!」

またしても、三人で笑い転げる。

おかしい。おかし過ぎる!

動画の中で演技している自分、気取ってる自分、超ウケる!

俺ヤバいわ…!



「…あれ?またやってんの?」



俺達が、笑い転げている中、理人が戻ってきた。

足早にこっちに寄ってきて俺達の輪の中に入る。

「今度は何?」

「今度はチョコをあーんしてやるのよ」

咲哉は理人に動画を再生して見せていた。

「へぇ…?」

理人が悪い笑みをこぼした。

ヤル気か?

「理人もやる?」

「もちろん。夏輝に負けられないだろ」

「変な対抗心燃やすなっつーの」



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