王子様とブーランジェール
桃李が俺の背中に隠れている。
何?俺、バリケード?
すると、追っ手も俺の目の前に現れた。
「メガネ…俺から逃げるなんて、いい度胸してるな?」
悪そうな笑みを浮かべている蜂谷さんだ。
何か、楽しそうだけど。
「だ、だ、だ、だって、イジワルなことばかり!い、い、言ってくるじゃないですかぁぁっ!も、も、もうメガネじゃありませんっ!」
「…じゃあ、林と同じく、桃りんって呼ぶ?桃りーん?」
そう言って、俺の後ろにいる桃李の顔を覗きこむ。
とたんに桃李は「ひいぃぃっ!」と、汚い悲鳴をあげた。
「かお!…顔近付けないでえぇぇっ!」
「え?え?何で?まだあの事気にしてんの?それはごめんねったら」
そして、またしても後ろを覗きこむ蜂谷さん。
「ち、違いますうぅぅっ!」
桃李は顔を逸らし、やがて俺の背中に顔を埋めてしまった。
わっ!お、おいおい…。
背中…!
そして、蜂谷さんは桃李の耳元で、囁く。
「…また一緒にクレープ食べに行こなー?…桃りん?」
…何っ!
ブッと笑ってから、俺に「お疲れ!」と言って、あっという間に去っていった。
な、何だったんだ…?
「………」
蜂谷さんは去ったが。
追いかけられていたと思われる桃李は…まだ俺の背中に隠れたままだ。
背中に顔を埋めて動かない…。
ち、ちょっとちょっと…!
「桃李…」
「…もう、行った?」
「行ったけど…」
「………」
ようやく、顔を上げて、腰の手も離してくれた。
ったく…。
背中…ドキッとさせんなよ!
密着してしまった…。
…っていうか、逃げるためとはいえ、簡単に密着してこないでくれ…。
心臓に悪い…。
ここ一番で深いため息が出た。
ドキドキやら照れの感情を腹から逃がすように。
「な、夏輝ごめん…」
「いや…」
正面玄関口に届いていた荷物は、段ボール箱ひとつ。
持ってみたが、結構重かった。
その重い段ボールを持ち、教室に戻る。
桃李は俺の横に並んで歩いていた。
「これ、何入ってんの?結構重いな」
「お砂糖。わたあめ作るお砂糖。ザラメ」
「ザラメ?ずいぶんたくさん頼んだな」
「うちで頼んでるお砂糖の業者さんから買ったの。安くしてくれるし、うちに寄ったついでに学校に届けてくれたの」
「ふーん」