王子様とブーランジェール



「わたあめ作る機械もタダで貸してもらうんだ。明日学校に届くから教室まで運んでね」

「お、わかった」

珍しい。桃李が俺に気軽に物を頼むなんて。

今までなら「お願いします…」なんて、びくびくしながら頭を下げていたのに。

運んでね。だって。

かわいいなぁ…。



ふと、横にいる桃李を見ると。

何やらニコニコしている。


「…楽しそうだな?」

「ん?」

桃李もこっちを見た。

「いや、楽しそうにしてるなと思ってさ」

「うん、楽しいよ?」

そして、ニコッと笑う。



やば。笑顔だ。

かわいい…!


ズキューンときた。


何だろう、さっきから。

胸キュン連発だよ。おい。


それに、さっきも「助けて!」だってさ。

俺に助けを求めてきたぞ?

猛突進してきた顔はヤバかったが。

俺の後ろに隠れやがって。



何だか嬉しいなぁ、おい。



今の俺には。

胸キュンとラブラブライフは、この程度で十分腹一杯になってしまった。

あはは。幸せだわ、おい。



…だけど、これでお腹いっぱいになっては、いけない。



この幸せと思える貴重な時間をどれだけ過ごせるか、だよな。



…問題、山積みだけどな。

敵も多いし。



(敵…な)



「…桃李」

「ん?何?」

「おまえ、蜂谷さんとクレープ食べに行ったの?」

「えっ…」



表情が急に焦りだした。

何で?

気になるもんは、気になる。



「さっき蜂谷さん言ってたじゃん。またクレープ食べに行こなー?なんて」

「あ…それは…コンタクト作りに行った帰りに家まで送ってもらって…帰りに駅でおごってもらって…」

「へぇ?蜂谷さんに?送ってもらったの?」

送ってもらったことは、知ってるけどな…。

「え、え…あ、あ…うん…」

「何で声小さくなってんの?」

「や…だって…勘違いされたくないもん」

「………」

…え?何だって?

勘違いされたくないもんって…?

俺に…ですか?

「あの人、イジワルなの。耳元で急に叫んでくるし、イジワルなこと言ってくるし、からかってくるし。あんな人と仲良しとか勘違いされたくないの」

「………」

あ、そういうこと…。

俺に勘違いされるのが嫌だとかじゃなくて、みんなに勘違いされるのが嫌なのか。

あ、そう…。

俺、調子に乗りすぎた…。

何を舞い上がってしまったんだか…。


幸せムードから、一気に自己嫌悪モードに転落した。


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