王子様とブーランジェール
そうだ。そうだった。
桃李にとっては、俺なんてただの幼なじみ、友達の弟程度なんだった…。
浮かれていちゃいけない。
格上げ狙っていかないと。格上げ。
「…さっきもね。蜂谷センパイ、急に後ろから叫んできてビックリした。で、イジワルなこと言うし、追いかけてきたの。夏輝が来てくれてよかった…」
「…え?」
「りみちゃんが、荷物、夏輝が運んでくれるって、今そっち行ったからって電話くれてたから。今来てくんないかなって思ってたら、来てくれたから、本当によかった…」
「………」
感想、素直すぎやしませんか?
俺が来てくれてよかった、とか…。
めっちゃ嬉しいんですけど…。
そんな意味はなくても…。
今、少しだけ舞い上がってもいいですか?
ぬか喜びとはわかっていますが。
段ボール箱を持ったまま、立ち尽くす。
頭が真っ白になりそう…!
「夏輝、教室まであと少しだよ。重いかもしれないけど頑張って」
「…はいはい」
…言われなくても、わかっとる。
わかっとるわ!
教室まで到着し、言われた場所に荷物を降ろした。
結構重かったぞ。
廊下に出て、腕を伸ばす。
昨日から部活ないから、体が鈍る。
昨日も行ってきたけど、今日も行くかな。ジム。
「夏輝、ありがとね」
後ろを振り返ると、桃李が立っていた。
「おう。任せとけ。力仕事はな?明日はわたあめ作る機械だろ?」
「…うん!お願いね」
お願いね…かわいいなぁ…。
桃李にとっては、特に意味はないのかもしれないが。
頼られてるのって、何か嬉しい。
嬉しくて、口元緩むわ。
何か。タダのだらしないヤツになってんな。俺。
いけない。いけない。
しかし、思いもかけないところで、嵐っていうのはやってくる。
「…あ、竜堂くぅーん!いたー!」
…何っ!
遠くから叫びやがって!
この猫なで声、遠くからでもわかるぞ。
俺の姿を見つけて、駆け寄ってきた。
来た。来やがった。
もう来んなって言ったのに、来やがった…!
「やーん!久々ー!会いたかったぁー!」
やーん!じゃねえし!
もうおまえの顔は見たくねえし…!
よりによって、桃李といるときに!
嵐さんだ…!