王子様とブーランジェール
「ねえねえ、どうしてクラスの子とは行くのに、慎吾は私とは行ってくれないの?!私だって『幸せのパンケーキ』食べたいって言ってたじゃん!」
「うるさいなー。たまたま近くにあったから寄っただけだっつーの。いちいち突っかかってくんな!このウザ律子!」
なぜ、この女?
藤ノ宮律子!
「じゃあ今日行こう。帰り行こう。たまたま近く通りかかろう?」
「はぁっ?!今日?…学校祭だっつーの!めんどくさっ!何ならそこらへんの男に連れてってもらえ。おまえとパンケーキ食いたいヤツは山ほどいる。五人くらい連れてけ」
「やだやだやだやだ。パンケーキ食べたい!パンケーキ食べたい!パンケーキ食べたい!慎吾と二人で行きたい!…桃李がいるなら三人でもいいけど」
「あーうるせえうるせえうるせえ。おまえはケーキ頭に乗っけた乙女系の男芸人か!」
藤ノ宮律子は、あんなキャラなのか。
見た感じ、クールでカッコいい系だと思っていたのに。
教室に来た時も、桃李の前では頼れる姉さん系だったのに。
松嶋の前で、甘えん坊キャラになっている。意外。年上だよな?
松嶋も、ヘラヘラしているおバカキャラは消えている。
どういうことだ?
藤ノ宮律子、ズーレーの線は、消えた。
とんでもない憶測をしてしまっていたようだ。
しばらく様子を見守っていると、ふと松嶋がこっちを振り向いた。
こっち、俺の存在に気付いた。
「…お!だ、ダンナ!」
一目散にこっちに走ってくる。
ようやく逃れられたのか、嬉しそうに寄ってきた。
「…もう!ちょっと!」
「こっちは忙しいんだよ!あばよ!…さ、行こうダンナ」
「正面玄関口だけど。荷物…」
「運ぼう運ぼう!」
「ちょっ…おい!」
そう言って、松嶋は俺の背中を押して、その場からさっさとずらかる。
藤ノ宮律子、ムッとしてこっちを見てるぞ。
(………)
なんか、今。
俺、ぎっちりと睨まれたような気がする。
気のせいか?
「やーやー助かった。あの女、しつこいのよ。アナコンダ並みに絡んでくるし。毒持ちさ。毒!」
荷物を受け取り、松嶋と仲良く一箱ずつ持って、再び教室に向かう。
松嶋も、元のヘラヘラ男に戻っていた。
「藤ノ宮律子だろ?どんな関係?」
「ウザノ宮律子でございます。タダの幼なじみ」
「幼なじみ?!」
「習い事が一緒なだけ。それだけなのに、俺にパンケーキをねだるウザい女、それがアイツ、ウザノ宮」