王子様とブーランジェール
この汚い悲鳴…桃李か!
「…な、何だよ!ビックリさせんな!声かけろよ!」
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!」
桃李の悲鳴にビックリした…。
怒ってないのに悲鳴をあげられた…。
ビビり過ぎだ。
うちのチワワ、ピンクばりにビビってやがる。
「…で、何?」
「あ、あ、あ、あの、これ…」
桃李が手に持ってるのは…わたあめ?
いや、カップに入ったアイスコーヒーに、わたあめが乗っかっていて、ストローが刺さっていた。
「何これ」
「わたあめコーヒー。あげる」
どうやら、わたあめをただ作って売るだけじゃなくて、わたあめドリンクも売るらしい。
コットンキャンディーソーダってやつ。
「あれ。ソーダだけじゃないのか」
「コーヒーも作ってみたの。無糖にしてるから」
「どうやって飲むのよ」
「わたあめ潰してコーヒーに溶かして…」
「ふーん…」
甘そう。
ストローでかき回しながら潰して、飲んでみる。
うん、普通にガムシロップが二つぐらい入ったアイスコーヒーだ。
「…お店に出しても大丈夫?」
「甘いけど、別に大丈夫じゃね?って、毒味か。コラ」
「うん。ごめんね」
そう言って、桃李は「大丈夫だってー」と、松嶋の方へ行ってしまった。
ホントに毒味だったワケ。
松嶋は遠くから俺に向けてピースをしている。
野郎…仕組んだな?
どういう意味か、何の目的か、わかるようでわからないが。
でも、まあ。いいか…。
ごめんね。だって。
いつもの「ごめんなさいいぃっ!」より、全然いい。
この気を許してくれてるような感じが、いい。
俺的に甘々なコーヒーをすすって、そこらへんの机に腰かける。
こんな感じの雰囲気、増えていかないかな…。
甘ったるいコーヒーを味わっていると、廊下の方が騒がしいことに気付いた。
「はい!どいてどいてー!」という声と共に、けたたましい物音が聞こえて大きくなってくる。
この声…陣太と咲哉?
何してんだ?
すると、二人が教室に登場した。
…ん?何?
ヤツら、何か持ってきた?
咲哉が台車に乗せて木の箱を持ってきた。
1メートル四方の大きさ。
人が一人座った状態で入れるぐらいの大きさだ。
一方陣太も、台車に荷物を乗せている。
暗幕と…パソコン?