王子様とブーランジェール








「…もう、始まった?」



咲哉が体育館の方をチラッと見た。

体育館からは、人の歓声と大音量の音楽が漏れている。


始まったようだな。前夜祭が。

だが、しかし。

中で一緒にキャーキャーと盛り上がってる場合じゃない。

こっちはこっちで、空前絶後の楽しみが待っているのだ。



「おい!まだ?まだかって!」

体育館側の男子トイレの前で、さっきから咲哉と待機している。

スマホ片手に。

「さっきから待ちわびちゃって。おまえら仲良いのか悪いのかわかんない」

「遅くね?!」

どちらかと言えば、せっかちな俺。

早く見たくて、とうとう男子トイレに乗り込んだ。



中には、野郎が二人。

…野郎?



「…ぶはははは!」



その二人の姿を目にした途端。

一気に腹がよじれた。



「えっ?何?何だって…ぶはははは!うわっ!うわっ!やべえ!」

俺の笑い声を聞いて、咲哉もトイレに入ってきた。

姿を現すなり、俺と同様のリアクションとなった。



「ぶはははは!…うくくくくっ…ぶはははは!」

「何だ何だこのギャルたちわ!…ぶはははは!」



やべえ。

予想以上、期待以上の仕上がりだ。

一気にツボが押されまくりだ…!



二人して腹を抱えて、壁にもたれこんでしまった。



理人と松嶋。

二人お揃いのピンクのチアガールの衣装を着て。

ファーのボンボン飾りのついた、金髪のツインテールのカツラを被り。

顔…ギャルメイクだ!

つけまつげをつけ、目の回りは真っ青で。

濃い目にチーク塗って、口紅つけて!

女装だ!もろに!



二人は鏡の前でメイクをチェックしているようだが。

突然トイレに乱入してきた俺を見て「キャー!」と、驚いたフリをしている。


「やっだー。男子、トイレに入ってこないでー?」

「キャーいやらしい!」


バカヤロー!心まで女子になるな!

ここは男子トイレだ!

いや、でも笑える…!



松嶋は、顔も可愛い系だし、170㎝と男子にしては小柄な方だからな。

女装、可愛いぞ。

でも、痩せているのかと思いきや、薄着になると案外しっかりとした体つきだということがわかり、この女子の衣装でその肩幅とか。ギャップありまくりで笑える。


問題は、もうお一方だ。


182㎝と高い身長な上に、バスケで鍛えたそのがっちりしまくって、筋肉ムキムキなその体。

チアガールの衣装、びっちびちにキツそうだ。

女装の中に、おもいっきり男が滲み出てるぞ。


< 270 / 948 >

この作品をシェア

pagetop