王子様とブーランジェール
しばらくトイレ内でそのまま頭を抱える。
少し、落ち着かせてから行かねば。
おかしくなりかけた…!
深いため息が出た。
ああぁぁ…こんなんで、どうするんだよ。
体育館に行って、また桃李のチアガール姿を見たら、またおかしくなるぞ。
理性、ぶっ飛ぶぞ?!
数分、悶々と考える。
しかし、桃李がぶっ倒れるぐらいまで頑張ったその成果を。
俺の理性どうこうで、見ないワケにはいかない。
あの桃李が、あれだけ頑張ったんだ。
『頑張れ』と言った手前、ずっとトイレに籠っている場合じゃない。
俺だって頑張れよ。
後ろの方で、一人で静かに見ているか…。
もう一度ため息をついて、重い腰を上げる。
よし、行こう。
行くぞ。
トイレから出る。
しかし、出てすぐ、人とぶつかってしまった。
ドン!と相手は一瞬よろめいている。
「…痛っ!…あ、ごめんなさい」
「すみません!大丈夫ですか?」
ぶつかった相手は女の人だった。
しかし、顔を二度見してしまう。
うわっ。この人、超美人。
ドキッとしてしまった。
私服…一般の人?
今日は一般の人は入れないはずなんだけど。
その超美人の女性は、静かに頭を下げている。
「大丈夫です。よそ見していてすみません」
そう言って、トイレに入っていった。
…男子トイレに。
「…あっ!そこ、男子トイレですよ?!」
思わず声をかけてしまう。
そのまま入って行ったら、とんでもないことになってしまうところだった。
「あ、はい。いろいろとすみません」
もう一度、俺に頭を下げていた。
だが…。
(…はぁっ?)
彼女は頭を上げるなり、引き返すのではなく。
そのまま男子トイレに入って行ってしまった。
…えっ?えっ?
どういうこと?
嫌な予感がして、俺も男子トイレに慌てて引き返す。
「…ちょっと!」
中では、まさしくその彼女は、洋式便器のある個室に入ろうとしているところだった。
…やっぱり!
俺の声で動きを止めた彼女。
「はい?」と、振り返っている。
その表情は、無表情に近い。
「…あの!…女性の方ですよねっ?!男性の方じゃないですよねっ?!」
「え?…あ、まあ一応、女性の方のカテゴリーですけど…」
はぁっ?!女性の…方?!どういう意味?
何言って??…何語?
その言い回しに、ちょっとイラッとしてしまい、声を張り上げてしまった。
「ここ、男子トイレですよ!女性は男子トイレに入らないで下さいっ!!」