王子様とブーランジェール
「どこの誰だか、教えて頂ければ呼んできますけど…?」
「あ、でも早く来ちゃったみたいだから、まだ来ないだけかもしれないんで」
「あ、そうですか?でも、ここでずっと待ってるのも…」
また、男子トイレに行きそうで恐い。
すると、女性は、静かに笑った。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。1年3組の発表に間に合えばいいので」
「えっ…」
この人、何て言った?
1年3組の発表に間に合えばって…。
どういう…。
「…あ、私、糸田先生と待ち合わせしてるんです。糸田先生知ってますか?サッカー部の先生」
「………」
知ってるも何も。この学校に通ってる生徒で、糸田先生のことを知らないヤツはいない。
糸田先生の知り合い?
こんな綺麗な女性が?
すると、その女性は勝手にベラベラと喋り出す。
火がついたみたいに。
「いつも行ってるパン屋さんの娘さんが、前夜祭のステージでチアダンスやるって言ってて、一緒に練習してたんです」
…えっ?
「で、どうしてもそのステージが見たくて、一般の人は入れないって知ってるんだけど、どうしても見たくて、糸田先生に入れて!って、ワガママ言ったら、先生と一緒にいるならってことで、内緒で許可もらっちゃったんです」
…ええっ?!
聞いたことのある話に、もう驚きしかない。
何て偶然の出会いだ。
じゃあ、この人は。
桃李が言っていた、近所のお姉さん。
パンダフルの常連の人…?!
すると、真後ろにある体育館のドアが音を立てて開く。
偶然にも、そこに待ち人が現れた。
「…糸田先生!」
女性は、現れた糸田先生の姿を目にするなり、駆け寄っていく。
手を広げて…抱きついた?!
「糸田先生、会いたかったー!」
「た、高村!く、来るなり何だぁ?」
「お久しぶりです!」
抱きつかれた先生、ビックリして戸惑っている。
うわぁ…先生、美人に抱きつかれて戸惑ってるよ。
戸惑う糸田先生、レアじゃね?
「それにしても久しぶりだな。高村、元気でやってるか?」
「はい!元気です!先生、卒業式以来ですね」
「ひょっとして、早く来てたのか?待たせた?」
「大丈夫です。トイレ間違えましたけど、あの大きい人が教えてくれたんで」
そう言って、彼女は俺を指差す。
先生の緩んでた表情、一気に変わった。
「…はぁ?竜堂?何サボってんだおまえ」
ですよね…。