王子様とブーランジェール



「な、何?」



桃李が近付いてきたのがわかったのか、隠れ蓑にしている俺の背後からひょっこりと顔を出す。

「桃李っ」

「…わっ!…えっ?あ、あおこさん?!」

「うふふー」

彼女の存在を理解したとたん、驚く反面、喜んだ笑顔になる。

「わっ!な、なんで…」

「うふふー」



理由は細かく答えず、彼女は親指立てて拳をつき出す。

いいね!みたい。



「桃李、よかったよ。かわいい」

「…はい!」


そして、軽く手を振る。

桃李は頷いて、こっちを何回も振り返りながらも、人の流れに押されて体育館を出ていった。



やれやれ。







その後。

次のステージが始まり、行き交う生徒が少なくなったのを見計らって、糸田先生の誘導で、体育館を出る。

「大きい人も一緒にまだ来て」

「…えっ?!」

俺はなぜか、まだ彼女の隠れ蓑となっており、背中を引っ張られる。

彼女は俺の背後に隠れながら移動しており。

俺は巻き込まれるカタチで、一緒に体育館を出る羽目となった。

大きい人って…。

仙道先生の方が俺より身長高いんだけどな…。

何で俺が隠れ蓑になってんだ?

そんな妙な様子で、正面玄関口まで移動させられる。







「先生がた、いろいろありがとうございました」



玄関にてパイソン柄のフラットシューズを履いたのち、彼女は深々と頭を下げていた。

「高村もこれから仕事おつかれさん」

「っていうか、今すぐあの野郎を連れてこい!拳骨喰らわしてやるわ!」

糸田先生、先ほどからなんかお怒り…。

彼女はそんな先生の様子をクスクスと笑っている。

「あれ。糸田先生、拳骨やめたんじゃなかったんですか?」

「そうなんだよ。坂下に『この御時世に見栄えが悪いから止めてください』ってよ。んで、今はタイキックにしたんだがな?…だけど、あのヘタレ野郎に関しては拳骨復活させるぞ!」

「もうー。大丈夫ですって先生」

仙道先生も笑っている。

「糸田先生、高村大好きだからなー。…あ、そういや、あいつらに挨拶していかなくていいのか?」

すると、彼女は静かに頷く。

「はい。ここに会いに来るにはまだ早いんで…」

「え?何で?」

「あの子たちが、ちゃんと『使命』を果たしてから…ね?」

「ふーん」



「それでは、糸田先生、DVD出来たら教えてください。あと、明日差し入れしますから、先生食べてくださいね?」

「差し入れ?いちいち気を遣わんでいい!」


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