王子様とブーランジェール



ようやく帰るのか、彼女は先生がたに丁寧に挨拶をする。



「仙道先生も担任頑張ってください」

「この先不安なクラスだけど、3年間頑張るわー」

そう言って、先生は俺をチラリと見た。

何だよ何だよ。

この先不安って、誰のこと!先生!

俺じゃないとは思うけど…桃李のことかな。



そして、彼女は俺の方を見た。



「りゅーどーくん、またね?」

「はぁ…」



もう、男子トイレには入るな。

あと、小便器に関するコメントはやめろ。



と、言ってやりたいところだが。

とりあえず、何も言わないで見送りをすることにした。




再度、深く頭を下げて。

手を振って。

彼女は颯爽と去っていった。



笑顔を見せながら。



(やれやれ…)



何だか、疲れた。

思えば、あの超美人に振り回されていたような気がする。

ため息をついた後、仙道先生に「体育館行ってまーす」と、一言かけて、立ち去ろうとした。




「…待て!竜堂!」

「…は、はい?!」



それは、突然のことだった。




俺を引き留めたのは、糸田先生。

こっちにずいっとやってくる。

腕を引っ張られて、耳打ちしてくる。

うっ…あなたのどアップ、キツいんですけど。



「…竜堂。このことは一切口外するな」

「…え?な、何を?」

小声でそう呟く糸田先生の声は、低い。

「いいか?決してアイツがここにいたことは、誰にも言うな。わかったか?聞かれてもテキトーにはぐらかしとけ。いいな?」

「は、はぁ…」

何で?

どういう意味?



その真意を聞こうとしたが、糸田先生はさっさと立ち去ってしまった。

体育館ではなく、階段を上がっていった。

「…あ、糸田先生!」と、仙道先生も後を着いて行ってしまう。



いったい…何なんだろうか。




先生もいなくなり、一人体育館に戻る。

ステージ発表は依然続いていたが、輪の中には加わらず、体育館の後ろの端の方で、一人で座って壁に背を預けていた。

先ほどの糸田先生の忠告が頭から離れず、何となくボーッと考えてしまう。



そうやって、念を押されると、気になってくるんだよな…。



なぜ、口外してはならないのか。

あの超美人は…何者なんだ?ってことになる。

話を聞いていると、恐らくここの卒業生だよな?

糸田先生は、担任していた生徒をこの春に卒業させている。

最近の卒業生か…?



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