王子様とブーランジェール




無防備に寝てたの見られてた…。

それも恥ずかしいし、デコ同士ぶつかるってのも…一歩間違えたら、違うところぶつかってたワケで…。

事故が起きるところだったぞ。

それ、刺激が強すぎる。

刺激が強すぎるおいしい事故。

おいしいのか、惜しいのかよくわからないけど。



「着替えたの?」

目の前にいる桃李は、制服姿だ。

チアガールの服、脱いでしまったのか。

なんだ…。

「だってあれお腹がスースーするの」

「そりや腹丸出しだもんな」

「理人はみんなに写真撮られていて、さっき着替えに行ったばかり」

「ずっとあのままでいればよかったのに。変態」

あの姿を思い出したら、ブッと吹き出してしまった。

いやーあれ面白かった。空前絶後だ。



「…あれ、黒沢さんとかはどうした?おまえ一人?」

「うん。りみちゃんたち前行ってる」

「おまえは行かないのか?」

「うん。夏輝に聞きたいことあったから、ここで待ってたの」



俺を待ってた…?

起きるの待ってたの…ってか?

で、5分くらいここにいたワケ?

俺の隣にいたワケ?



寝てるだなんて、なんて惜しいことを…!



「…だから、起こせよ」

「だから、起きるかなと思って…」



あぁ…こんなに近くにいるだけでも、実は今かなりヤバいのに。

待ってたのとか、かわいいんだけど…。



「…で、用は何だ?」

「あ、そうだ。あおこさん連れてきてくれたの、夏輝?」

「は?」



あおこさん…。



少し記憶を辿れば、すぐに思い出せた。



あ、あのガチバカ臭のする超美人のことか。

桃李の近所のお姉さん。ダンスの先生。



「いや、違う。そこでただ会っただけ。知らない人だし」

男子トイレに入ろうとしたのを阻止した、とは言わなくていいか。

「あ、そうか。偶然一緒だったんだね。何だ」

「そうそう」

何とも説明し難い出会いなもんだから、テキトーにまとめておいてくれ。

それが助かる。

糸田先生にも『テキトーにはぐらかしとけ』と言われてるしな。

それ以上は、何も言わなかった。



用が済んだはずなのに、桃李はまだ俺の隣にいる。

そのまま、俺の隣でステージの方を見ており、動こうとしていない。

なぜ、行かない?いや、いいんだけど…。



隣にいてくれるとか…嬉しいっていうか。



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