王子様とブーランジェール
「…あ、そうだ、おまえ」
「何?」
と、言いかけたが。
前の方から黒沢さんが「桃李ー!」と、こっちに走ってきたのが視界に入ってしまい、言葉の続きを止めてしまった。
「りみちゃん?」
「最後の発表始まるよ?3年5組の大喜利!桃李、高瀬センパイに、出るから見てくれって言われてたでしょ?」
「あ、そうだった」
あぁ?!高瀬?
その名前を耳にしただけで、イラッとした。
瞬間湯沸し器のごとく、イラッときたぞ一気に。
あのゴリラ、俺の見てないところで桃李と接触しやがって…!
許されないわ…!
急かされて、引っ張られるように桃李はあっという間に連れて行かれた。
何だか、黒沢さんではなく、高瀬に持ってかれた気分だ。
あのふざけたゴリラに対する殺意が高まる。
ちっ…。
『お疲れ』って、一言だけ言いたかったのに…。
ステージでは、テレビのまんまパクりの大喜利が開催されていた。
色とりどりの着物を着た男子が、座布団の上に座ってズラリと並んでいる。
高瀬は一番右端でオレンジ色の着物を着てるぞ。
林家ゴリラかてめえは。
隣には蜂谷さんが黄色の着物を着て扇子を持って座っていた。
蜂谷きくぞう?
同じクラスだったのか…。
「前夜祭、もう終わっちゃうな?」
敵どもが集結しているステージを漠然と見ていると、いつの間にか理人が右隣に座っていた。
突然話しかけられ、少しビックリさせられる。
気配消してくんな。
顔…メイク落としたのか。
こいつも制服に着替えてるし。
「残念。何で着替えんだよ」
「あはは。あっちの方がよかった?いろんな人と写真撮った」
「断然良いに決まってるべや!あの格好で家まで帰ればよかったのに。徒歩8分の間に職質されると思うけどな?」
「ポリスも虜にするから大丈夫」
「虜?不審者だっつーの」
「不審者かー」
理人はクスッと笑っている。
「まあまあ。楽しむにはバカにならなきゃな?」
そう言って、俺の肩を叩く。
バカ、ねえ…?
…こいつらみたいに?
『一度でいいから見てみたい!高瀬がバナナを食べるとこ!…蜂谷でぇーす!』
『蜂谷、俺がバナナ食べるとこいつも見てるじゃねえか!』
ステージ上の蜂谷さんと高瀬がボケツッコミをしている。
蜂谷さんもゴリラネタで引っ張る系…?