王子様とブーランジェール
そして、ざわついている格技場の中。
実況の福元局長の声が、再度響き渡る。
『それでは、《星天高校前夜祭デスマッチリバイバル》、この死闘に身を投じる、クレイジーな選手らをご紹介致しましょう!…まずは、赤コーナー!』
すると、本当にクレイジーなヤツが、ケージの外に登場した。
ま、マジか!
『小学から始めた空手で、全道のタイトルは総ナメ!中学3年時には、男子個人組手で全道チャンピオンとなり、全国大会でも3位と輝かしい成績を修めております!』
へぇ…。アイツ、そんなに強かったの?
意外。
『…先日行われた、北海道高校空手道選手権大会では、第3位と惜しくも全国行きを逃してしまいましたが、全中チャンピオンの実力は顕在、その鍛え抜かれた肉体とゴリラの風貌で、死闘に挑みます!』
ゴリラでいじられてる…ぶっ。
局長、結構ディスりますね?
『…赤コーナー!空手部・主将、3年5組、高瀬今朝文ぃーっ!!』
福元局長のアナウンスと共に、観客生徒の歓声が沸き上がり。
あの、高瀬が『うおぉぉーっ!!』と、叫びながら、ケージの中に入ってきた。
あのオレンジの着物から、道着に着替えている。
やべっ…ぶっ。
ツボに入った。いろいろ。
俯いて、笑いを堪える。
高瀬、あのクソゴリラ。
叫びながら入ってきたぞ。
ゴリラの雄叫びだ。
ヤバい。ウケる。雄叫びゴリラ。
しかも、名前、今朝文っていうのか?
けさふみ、と読む。
まるで、おじいちゃんみたいな名前だ…!
朝に生まれたの?だから?
ウケる。ウケる。楽しい…!
「何ツボに入ってんの」
「バカ。こんなに面白いことねえよ…うくくく…」
「夏輝もバカになれ?めっちゃ楽しいぞ?」
はぁ?何で俺がバカになる必要があるんだよ!
バカを端から見てるから楽しいんじゃねえか!
ウケるぞ…笑えるぞ!
…だが。
まさか、自分が。
そのバカの一員にされるとは、この時は思わず…。
『…対する、青コーナー!…昨年度まで中学クラブユースサッカーチーム《トリプルエスジュニアユース》に所属、そのフィジカルの強さと、勝負強さと巧みな戦術展開で、北海道勢初の全国優勝の立役者となりました!』
(………)
この経歴、どっかで…。
身に覚えがあるんですけど…。