王子様とブーランジェール




昨日、一番上の姉ちゃんが帰ってきていて。

ソファーで漫画を読んでいる間に、足の爪をネイルの練習台にさせられていた。

まさか、公衆の面前で靴下を脱ぐ事態になると思わず。

そのままにしてきてしまった…!




姉のいる弊害。

は、恥ずかしい…!




「女子みたいだな」

「えー?可愛くない?最近は男もネイルしてる人いるよ?和田もやってみれば?」

潤さんと理人が、その黒いペディキュアをじっと見つめている。

やめろ、見るな。



ネイルを落とす時間なんてない。

このままで行くしか…!

…あぁっ!もう!良いことなんてない!



急いでテーピングを巻き、アンクルガードを履く。

制服のネクタイを外して。

練習用の黒いグローブに指を通した。



…まさか、こんなことになるとは、思わなかった。



こんな、学校で。

全校生徒の前で試合…ケンカ?をすることになるとは。



今までこなしてきた公式試合とは、ワケが違う。



いろいろあるけど、クローズアップするとしたら。


この会場に、桃李がいること。

桃李が…見ていることだった。



相手が誰であれ。

桃李の前では、絶対に負けられない。



それは、俺達二人の歴史、過去に絡んでくる。



《…私が悪いんですっ…ごめん、ごめんなさい…》

《悪いのは、そっちの方じゃないか!》

《大人に対する態度を弁えろ…》



ちっ…。

何でこんな時に思い出さなきゃいけないんだよ…。



イラッとさせられる。



『…おい、何モタモタしてんだぁ?!まさか、着替えすんのか?あぁっ?…トランクス一枚に、なりますかぁーっ?!高瀬も胴着着てるしなぁ?』



狭山がやたらと急かしてくる。

ヤジともいえるその発言に、観客から笑いが起こった。

ったく、人を使って笑いをとってんじゃねえよ。

着替え?するか!めんどくさっ。

こんなもん、このまま制服でいい!

っていうか、高瀬も道着なんか着ちゃって何張り切ってんだこのクソゴリラ!

心の文句が山ほど出てくる。



だけど、さっさと中に入らないと、狭山がいつまでもうるさい。

制服のズボンの裾をまくって。

ケージの入口を開けて、中に入る。




もう、やるしかない。

覚悟を決めたら、集中せよ。







『…ようやく来たかバカめ!人を待たせるな!』



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