王子様とブーランジェール
待たせるなとか言ってんじゃねえよ。
突然振っといて、なんだよ。
イラッとして立っていたが、そこで、ケージ越しに「竜堂!竜堂!」と声をかけられる。
振り向くと、木元さんだ。
最前列の俺のちょうど背後にいた。
「お、おまえ、おまえ、何しちゃってんの!インターハイ前だっつーのに!ケガ!ケガしちゃうだろって!」
ムカッ…俺だって、こんなことしたくねえよ!
インターハイ前だって、わかってるよ!
なのに、ハメられてどうもならない状況で、ここにいるんだっつーの!
どんどん殺気立ってくるじゃねえか!
木元さんの呼び掛けは無視した。
しかし、「お、おい!無視すんなよー!聞こえてんのか?な?危ないよー!」と、いつもの弱腰な話し方が…!
また、クズ臭漂わせやがって…!
ますますイラッとくるじゃねえか!
だが、ガヤに殺気立てている場合ではない。
殺すべき相手は、目の前にいるんだからな?
俺の真っ直ぐ目の前には。
道着姿に、俺と同じくオープンフィンガーグローブをはめた、高瀬が立っている。
ゴリラ顔で、仁王立ちしたゴリラが。
がっちりこっちを睨んでいて、気持ち余裕のある顔をしている。
ゴリラの余裕顔?上等じゃねえか。
『…人を待たせたからには?…最高のケンカ、見せてくれんだろうなぁ?…あぁ?』
狭山がマイクで喋りながら、ケージの中に入ってきた。
そして、俺と高瀬の間に立つ。
ちっ…この女。
おまえの立ち位置、何?プレゼンター?
狭山は俺に話を振っているようだが、これもあえて無視させてもらう。
堪えている怒りが爆発しそうで仕方ない。
よくもハメてくれたな。コノヤロー。
堪えている怒りは、眼力として高瀬を睨み返す。
すっげぇ、殺意高まるわ。ゴリラの顔見てたら。
『さて、星天高校前夜祭デスマッチリバイバル、ルールは14年前の四天王デスマッチと同じく!1R時間無制限、禁止技は一切無し!反則行為も無し!本当にただのケンカ、殺し合いでございます!』
実況のルール説明があるが…禁止技、反則行為無し?
無茶苦茶なルールだ。
本当に、不良のケンカだな。
かつての四天王は、どんなバトルを繰り広げていたんだ。
よく学校が許可したな?
いろいろ考えてしまい、頭がごちゃごちゃしてきた。