王子様とブーランジェール
だが、狭山の案にのったのは、高瀬だ。
「狭山さん、ちょっと貸してください」と、マイクを受け取っている。
何だ何だ?
マイクを通して、俺に何か言いたいことでもあんのか?
上等じゃねえか。
幼稚だろうが、何だろうが、口論も負けねえぞ。
『おーっと!高瀬、これはマイクパフォーマンスか?!高瀬、死闘を前にして、一体、何を語る?!』
放送局長も、盛り上がって実況しちゃう中。
黙ってその高瀬の様子を見ていた。
だが…。
『…神田さん!…神田さぁーんっ!!』
マイクを持った高瀬は、そう叫んで、観客席の方に手を振り始めた。
…はぁっ?!
な、何やってんだこいつは!
しかも、神田って…桃李に?!
観客皆、高瀬の手を振っている方向に注目する。
すると、不思議と観客の波の中にいた桃李の姿が、浮かび上がるように現れた。
そこにいたのか…。
「…え?え?え?…えっ!…な、な、な、何でみんな見て?…」
観客全員に注目を浴びてしまった桃李は、最高に挙動不審となっている。
隣にいる黒沢さんに助けを求めている様子だ。
しかし、この高瀬とかいうゴリラは、何でも唐突すぎる。
『…神田さん!愛してます!!』
高瀬の突然の愛の告白に。
場内は更に沸き上がる。
『おおーっ!』と、全員声をハモらせた。
…は、はぁ?
い、いきなりそれ、来る?
対する桃李は。
挙動不審のまま、フリーズしている…。
だろうな…桃李、御愁傷様。
だが、高瀬は桃李の反応なんて構わず、自分の言いたいことを言い続けていた。
『…神田さん!今宵、この、女に囲まれてチャラチャラしている竜堂を、ブチのめします!…その暁には、僕と…僕と、お付き合いして下さいぃっ!!』
な、何だと!
女に囲まれてチャラチャラしている竜堂?!…は、さておき。
僕とお付き合いして下さい、だぁ?!
この場に託つけて、何を言ってんだこのゴリラコラァ!
『高瀬、なんと!愛の告白…愛の告白です!告白された女子は若干迷惑そう!』
局長さん、ホントいいディスり具合だな。
しかし、俺の感情とは裏腹に。
何も事情を知らない観客たちは、騒ぎ出す。
「うおぉぉーっ!高瀬、言ってくれるな!」
「やれ!やっちまえ!イケメンなんか、やっつけろ!」
「やっつけて、彼女と付き合っちまえ!」
「イケメンなんて、男子の敵だ!」
「高瀬!高瀬!」