王子様とブーランジェール
すると、作業を中断して手を洗っている。
手を拭きながら、こっちにやってきた。
店のアンティークなドアが開く。
「夏輝、部活終わったの?お疲れさま!」
満面の笑顔で出迎えてくれる。
お疲れさま!って…や、やべっ!可愛い!
と、一瞬盛り上がってしまったが、急に恥ずかしくなってしまい、気持ち目を逸らしてしまった。
「あ、うん…今帰り」
「お、お腹空いたの?」
「あ、えーと…」
言葉を探していると、またニコッと笑いかけてくれる。
「寄ってく?…店の残り物でいいならあるよ?」
そう言って、俺に小さく手招きをして、中に入っていく。
俺がお腹が空いたから、ここにいたと思ったんだろうか。
でも、残り物でもパンはパンで。
やった。ラッキー。
桃李の後に着いて、俺も店の中へと入った。
店内のイートインスペースの電気を点けてくれて、「ちょっと座っててー」と、桃李は店の奥に入っていく。
桃李の姿を目で追いながら、いつもの座り慣れた端の席に腰かけた。
でも、言っとくけど、残り物のパンが目当てじゃないぞ。
「コーヒーにするー?」
奥から桃李の声がする。
「あぁ。アイスな」
「はーい」
作業を中断させて悪かったかな。
それにしても、桃李のコックコート姿、久しぶりに見た。
相変わらず、似合ってて可愛い…。
なんて思いながら、桃李のいる方向から聞こえる物音を耳にして考える。
「お待たせー」
両手で運んできた木製の皿の上には、パンが3つ。
クロワッサン、塩パンに豆パンだ。
温め直したのか、フッと香りがする。
「そういやおまえ、朝言ってた塩クロワッサン、どうだっんだ?」
「あ、あれは食感がイマイチで失敗しちゃった。また作るよ」
「ふーん」
そんな何気ない会話をしながら、皿の上のクロワッサンに手を伸ばす。
かじりつくと、パリッと音がした。
焼きたてじゃない残り物なのに。
まだサクサク感残ってる。
「あー…うまいぃ」
このパンの香りと甘味にやられる。
そうそう。これ。
パンダフルのパンって他と比べて、絶妙にパリッとしてるし、絶妙に良い甘味なんだよ。
バターの香りとパンの甘味に癒される。
疲れ、とれる…。
何でこんなに美味いんだよ。
小麦万歳、バターと砂糖万歳、イースト菌グッジョブだ。
美味すぎて、なんだか嬉しくて、にやけてしまう。
至福の時だよ。