王子様とブーランジェール
そして、場内は一気に高瀬コールでいっぱいになる。
え…。何?
これ、俺が悪役みたいじゃね?
何てこと…!
高瀬コールに勢いづいたのか、観客席に向かって両手を上げて「うおぉぉーっ!!」と、叫ぶクソゴリラ。
また雄叫びをあげた。ゴリラの雄叫び。
そんな高瀬と一緒に、男子生徒は盛り上がっている。
格技場内は変な統一感が生まれていた。
何だこれ…。
アウェイ感たっぷりだ。
…だが、やりづらいだの何だの、そんなことは思っちゃいない。
ヒールで結構。
ゴリラ殺すのに、ヒーローもヒールも関係ない。
『竜堂、おまえも一言ぶちまけてこい?』
そう言って、狭山は俺にマイクを差し出す。
そして、悪魔の笑みを浮かべながら、マイクのスイッチを切って小声で囁くように話してきた。
「…おまえも、この格技場の中心で愛を叫べ?『おまえに桃李は渡さない!』ってよ…?」
「…はぁっ?!」
クックッ…と、狭山は笑っている。
んだと?この…!
そんなこと、公衆の面前で叫べるか!
恥ずかしすぎて、戦意喪失するわ!
「ふざけんなよ。アイツを巻き込むな!」
「クックッ…カッコつけおって。本当はめちゃくちゃ焦ってるくせによー?戦って、勝ち取れば良いではないか?」
焦ってる?
あんなゴリラ相手に焦るものか。
ここで勝とうが負けようが、桃李には近づけさせない。
こんなケンカ試合の勝敗で、桃李をどうにかしようだなんて、このゴリラはカスだ。
桃李をきっかけに始まったモメ事ではあるが。
こんな全校生徒の前で、桃李を晒すようなマネをするだなんて。
戦って、勝ち取れ?
許されないわ…!
このクソゴリラ…!
ついでに狭山…!
「…ほら。ほら、早く愛を叫べ!早くしろバカめ!」
いらねえっつーの。
だが、狭山は無理矢理マイクを押し付けてきた。
ちっ。
ホントこいつ強引だな。
『…今度は、竜堂にマイクが渡りました!さあ、星天高校の新しい王子様は、いったい何を語るのか?!』
手にしたスイッチの入ったマイクを見つめる。
狭山は依然として「早くしろ!」と急かしている。
ったく…。
しかし、そうやすやすと狭山の思い通りになってたまるか。
桃李のいる観客席とは、反対の方向の観客席を向く。
スイッチの入ったマイクを口に近付けた。