王子様とブーランジェール
『…木元さんっ!!』
そこには、最前列に俺の仲良し先輩が一人。
「え?俺?」
俺に無視されて悲しそうにしていた先輩である。
急に名前を呼ばれてビックリしたのか、辺りをキョロキョロと見て慌てている。
『…クズ臭が致します。…以上!』
「え、えぇーっ!!」
とりあえず、何か喋ってやれば良いかと思いついたことを言ってみたのだけど…。
すると、後ろの方で一部、笑いが爆発していた。
「竜堂、いいぞー!」
「木元のクズ臭、よくぞ言った!誰も言い出せなかったこと、よくぞ言った!」
「おまえ、俺達サッカー部のヒーロー!」
「また合コン連れてってやるからなー!イケメン死ね!」
サッカー部の3年の先輩たちだ。
手を叩いて大爆笑している。
身内でさぞ盛り上がって、良いことだ。
でも、大河原さん、合コンはもういいです。
『おっと、ここで竜堂、なぜか自分の先輩をディスりました!ミスター最有力候補の木元がクズ臭呼ばわり!これは女子たちを敵に回しかねない発言!』
そうなのか。
ホントのホントにヒールになってしまいそうだ。
クソみたいな先輩だらけのサッカー部のヒーロー…。
悪くないな。
「竜堂ーっ!クズ臭って…俺、先輩…」
えぇい!捨て犬のような目で俺を見るんじゃない!
そこがクズ臭たっぷりだ!
…って、ごめんね。木元さん。ホントは一番大好きな先輩ですよ。
今ので、無駄なイライラがちょっと落ち着いた。
と、思ったのも束の間。
狭山にマイクをスイッチを消して突き返す。
「ホンっトに、そこは乗ってこねえんだな?バカめ!」
「………」
だから。易々とおまえの思惑にハマってたまるか。
やれやれ。
ふと、気が付くと。
高瀬が俺の足をじーっと見ている。
な、何だ…?
すると、ブッと笑った。
「…おまえ、その足、何?ホントに女子だったのか!」
ん?…あ、あぁっ!
高瀬が見ていたのは、俺の足の爪…!
黒をベースに和柄があしらわれた、ペディキュアネイルアート…!
しまった!スルーされると思ったのに!
なぜここでいじってくる!
高瀬は爆笑している。
「まさか?準備遅かったのも爪いじってたからですかー?女子は支度が遅いですもんねー?…そんな爪なんかいじってるからチャラチャラしているヤローなんだよ竜堂おまえは!」