王子様とブーランジェール
『さあ!幼稚な罵り合いから、高瀬の不意討ちの膝蹴りで無理矢理ゴングが鳴ったこの試合!竜堂も華麗に上段回し蹴り!』
今の回し蹴りで、高瀬は後ろに下がった。
相手の様子を見るために、飛び込んでワンツー…と、行きたいところだが。
こんなくだらない茶番劇は、さっさと終わらせたい。
さっさと…殺してやる!
少し下がって、助走のように3歩ほど踏み込んで、膝を振り上げて飛び上がる。
狙うは、高瀬の顔面。
右膝…と、見せかけて、左!
「高瀬フェイク!…左だ!」
そう高瀬に声をかけるのは奈緒美だ。
その声を耳にしたのか、両手で顔面をガードし、俺の左膝を直前で食い止める。
だが、勢いがついていたため、その防御もろとも後ろにぶっ飛んでいった。
倒れこそはしなかったが、少し後ろにふらついている。
『ああっと!竜堂、これは一撃必殺を狙った飛び膝蹴り!右と見せかけてとフェイクの入った左!これはもう、殺意しか感じられません!美しい顔をして考えることはえげつない!』
局長さん、俺のこともディスるんですか。
ちっ。奈緒美の助言がなけりゃ炸裂してたのに。
だが、隙を見逃さない。
止めるレフェリーもいないため、一気に踏み込んでいく。
高瀬の体勢が整うことを待たず、ワンツーで右足ミドル。
打撃はガードされるも、ミドルはバチッと入った。
すかさず向こうも、腰を使った大振りの右フックを入れてくるが、上体右後ろに反らして回避した。
今のパンチ、重そう。
打撃をもらって応戦するスタイルは元々好きじゃないが、こいつのパンチはもらわない方がいいか。
少し下がって、ファイティングポーズを取って、ヤツの出方を見る。
高瀬も同じように、俺の出方を見ているようだ。
「竜堂ー!勝ったら真っ直ぐ合コンだぞー!」
大河原さん…こんな時に。
こんなセリフがさくっと耳に入ってしまうのが、切ない。
集中しきれてないのか?俺…。
すると、後ろの方で「夏輝様はもう合コンなんかに行かないわよ!あんたも我が家のガス室にぶちこまれたいの?!」と、女子の甲高い声が聞こえた。
また、ガス室女か?
で、あんた誰?
すると、高瀬のローキックが右大腿の外側にベチッと入った。
体が反応して左足が動き、同じようにローキックを入れる。
集中しよう。集中…。