王子様とブーランジェール
前に進んだり、下がったりの様子を見ながらのローキックの打ち合いがしばらく続く。
…高瀬の左足が動いた。
その瞬間を見計らって、左足を振り上げる。
互い同時にミドルが入り、後ろに下がる。
が、高瀬はそこでは下がらず、左足、右足とミドルの二段回し蹴りを入れてきて、距離は更にスピードをつけて逃げるように後退した。
ちょっと動いてきた。
そろそろ…。
大きく踏み込んで、飛び掛かるように左足を振り上げる。
高瀬はこれを大きく後退して回避。
…は、計算ずくだ。
そして、高瀬は踏み込んでくる。
右足を振り上げて、俺の腹の真ん中めがけて真っ直ぐ…!
「…なっ!」
その振り上げてきた右足を両手でキャッチした。
足首へと持ち変えて、一気に引っ張り上げる。
「うぉっ!」
俺が足を引っ張り上げたことにより、高瀬の体はバン!と音を立てて、倒れた。
リングに背をつけて、仰向けになった状態だ。
やったぞ。
寝かしてやったぞ?
すぐさま、高瀬の上に乗っかり、顔に向かってパンチを乱打してやる。
最初の一発入ったところで、ヤツは両手で顔面をきっちりガードしていた。
しかし、その上からでもパンチの乱打をやめない。
…死にさらせ!
殺してやる!
『ああーっと!竜堂、高瀬を倒して寝技へと持ち込んだ!マウントは不完全ですが、これはキックボクシングでは禁止技!…この場に託つけて、えげつなさすぎる!イケメン台無しの悪党です!』
知っとるわ!そんなこと!
…いや、総合格闘技でやっていたから、やってみたかったっていうのは、言うまでもない。
「…ゴリラ!…死ね!このバカゴリラあぁぁっ!」
一方的に、しかもこのバカゴリラ相手に拳の乱打なんて、気持ちいいったら、ありゃしない。
…だが、俺はツメが甘かった。
やられる一方の高瀬が足を振り上げている。
それが、大腿に少し当たる。
ほんの少し気を取られただけだったが。
(…なっ!)
高瀬はガードを解いており、隙を見て俺の右手首を両手でしっかりと掴んでいた。
し、しまった!
そして、一気に体勢を変えて、高瀬の両足が右肩に絡み付いてくる。
ヤバい、関節…!
「…慣れない禁止技なんかやるからだ!このチャラ男!」