王子様とブーランジェール



前に進んだり、下がったりの様子を見ながらのローキックの打ち合いがしばらく続く。

…高瀬の左足が動いた。

その瞬間を見計らって、左足を振り上げる。

互い同時にミドルが入り、後ろに下がる。

が、高瀬はそこでは下がらず、左足、右足とミドルの二段回し蹴りを入れてきて、距離は更にスピードをつけて逃げるように後退した。

ちょっと動いてきた。

そろそろ…。


大きく踏み込んで、飛び掛かるように左足を振り上げる。

高瀬はこれを大きく後退して回避。

…は、計算ずくだ。


そして、高瀬は踏み込んでくる。

右足を振り上げて、俺の腹の真ん中めがけて真っ直ぐ…!



「…なっ!」



その振り上げてきた右足を両手でキャッチした。

足首へと持ち変えて、一気に引っ張り上げる。

「うぉっ!」

俺が足を引っ張り上げたことにより、高瀬の体はバン!と音を立てて、倒れた。

リングに背をつけて、仰向けになった状態だ。



やったぞ。

寝かしてやったぞ?



すぐさま、高瀬の上に乗っかり、顔に向かってパンチを乱打してやる。

最初の一発入ったところで、ヤツは両手で顔面をきっちりガードしていた。

しかし、その上からでもパンチの乱打をやめない。



…死にさらせ!

殺してやる!



『ああーっと!竜堂、高瀬を倒して寝技へと持ち込んだ!マウントは不完全ですが、これはキックボクシングでは禁止技!…この場に託つけて、えげつなさすぎる!イケメン台無しの悪党です!』



知っとるわ!そんなこと!

…いや、総合格闘技でやっていたから、やってみたかったっていうのは、言うまでもない。



「…ゴリラ!…死ね!このバカゴリラあぁぁっ!」



一方的に、しかもこのバカゴリラ相手に拳の乱打なんて、気持ちいいったら、ありゃしない。

…だが、俺はツメが甘かった。



やられる一方の高瀬が足を振り上げている。

それが、大腿に少し当たる。

ほんの少し気を取られただけだったが。



(…なっ!)



高瀬はガードを解いており、隙を見て俺の右手首を両手でしっかりと掴んでいた。

し、しまった!

そして、一気に体勢を変えて、高瀬の両足が右肩に絡み付いてくる。

ヤバい、関節…!



「…慣れない禁止技なんかやるからだ!このチャラ男!」



< 306 / 948 >

この作品をシェア

pagetop