王子様とブーランジェール
そして、俺の右手首を一気に引っ張り上げて抱え込み、締め始めた。
…うおぉぉーっ!い、痛えっ!
『形成逆転?!高瀬が隙を逃さず、関節技に入ったー!その見た目、まさに丸太をホールドする動物園のゴリラ!』
局長さん、笑いたいのに、痛くて笑えない…うおぉぉーっ!
打撃の痛みとは質の違う痛みに悶絶する。
肩、腕、もげそうだ…!
しまった。ツメが甘かった。
しっかりマウント取ってればよかった…!
調子に乗った結果だった。
(やばっ…)
「…オラァ!竜堂どうした!ギブか?あぁ?」
「…るっせえな…」
と、言葉を口にするのがやっと。
「ギブなら床三回叩け!叩いてしまえ!」
ちっ…。このゴリラを甘く見ていたぞ。
空手にはない関節技が出来るとはな。
だが、絶対降参言わねえ。
負けた、言わねえってばよ!
この締められている姿を晒されていること自体、精神的苦痛で仕方ないのに。
敗北宣言なんて、地獄だ!
俄然負けん気で、諦めが悪い俺。
平たく言えば、負けず嫌い。
ましてや、こんなバカゴリラ相手に。
負けてなるものか。
桃李が…見てんだよ!
桃李の前では…負けた姿なんて、絶対見せられない。
見せられないんだって!
「くっ…」
フリーになっている足と腹の力で、強引に下半身を高瀬に引き寄せる。
「…なっ!」
俺の足の裏が高瀬の顔面に届いたところで、そのまま顔面に踵をドカッと入れてやる。
背が高くてよかった。じゃなきゃ届かない。
そのまま高瀬の上に乗っかり、両足で高瀬の体を挟む。
右腕締められたまま、力で無理矢理引っ張って、高瀬を体ごと一緒に転がる。
無理矢理動くと一層痛みが増すが、執念で堪えた。
「わっ!…おまえ!」
2回転したところで、高瀬の締めが緩み、そこを逃さず右腕を力入れて引っ張り出した。
『またまた形成逆転?!竜堂、関節技かけられているにも関わらず、転がって高瀬の隙をついた!これはえげつない執念!』
俺はどうやらえげつないキャラになったようだ。
高瀬の関節技から逃れたが、今ので一気に体力消耗してしまったのか、僅かばかりに息切れがする。
高瀬のゴリラ、関節技ヘタでよかった。
逃げられてよかったわ…。