王子様とブーランジェール



しかし、一息ついている暇なんてない。

フェンスを掴み、引っ張って立ち上がる。

だが、立ち上がったのも束の間。

高瀬はもう目の前にいる。


「…くらえ!」


左方向から飛んでくる右フックをしゃがんで回避し、潜り抜けてその場を離れる。

くらえ!って何だ。マンガじゃあるめいし。

「逃げ足、早っ!」

間もなく体勢立て直して、今度はこっちから、左右順にストレートとフックで顔を狙って、左のローキック。

キックが当たると同時に高瀬からも左ローキックが入った。

そして、すかさず膝蹴りが襲ってくるが、両手でガードする。



打撃が入っても、イマイチだな。

こいつ、なかなかやるんじゃねえの。ゴリラのくせに。



そして、もう一撃、膝蹴りが来る。

ガードした手そのまま払いのけて、右ストレートで高瀬の顔を狙う。

避けられると同時に、高瀬からも右ストレートが繰り出され、後方に反らして回避する。



さっきから、ジリジリと同じパターンになってきた。

何か、突破口を見つけなければ。

隙を探さねば。



引き続き、拳と蹴りの打ち合い。

ハイキックも、すれすれに回避される。

タイミングが…!

もう少し、何か炸裂しそうな気がするが、一向にキマらない。

10㎝弱の身長差のせいだけではないような気がする。

意外と見切られているタイミングか?



「竜堂、得意のハイキック、キマらねえな?ヘバってんのか?あぁ?」

「うるっせえな!」

余裕ぶっこいて喋りかけてくんじゃねえ!

イラッとさせられる。




時間無制限って、恐い。

このままだらだらやり合っていたら、体力消耗して。

力尽きたら、負けとなる。




力尽きる前に、勝負をつけないといけない。




だが、焦って総攻撃を仕掛けると、その隙をつかれてカウンターされたら、大ダメージだ。

こっちが隙を見つけて、突いてやれ。



落ち着け。

冷静に。

こんな時に、冷静さを欠くなんざ、話にもならない。



「…おい、竜堂」



少し離れて俺の様子を伺っている高瀬が喋り出した。



「………」



無視だ。無視。

試合中に、何談笑しようとしてるんだ。



「…ネイル、剥げてるぞ?」


…は?



思わずチラリとだけ、足元を見る。

しかし、それは罠だった。




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