王子様とブーランジェール




「そういや。三年女子の話って何だったんだよ」



3つのパンを一気に平らげたところで、本題に入る。

ここに来た目的は、残り物のパンではなく、桃李の安否確認だ。



「え?あー…」



桃李は自分の紅茶を飲みながら、しばらく考えている。

何だそのリアクション?

まさか、言い出しづらいことか…?



「…あー…えっと、何だっけ」



って、忘れることか?

あんな恐ろしい剣幕で連れていかれたのに?

自分も『死にたくないー!』って吠えていたはずなのに?!



「うーん、何だっけな…」

「普通忘れるか?!約三時間前に起こったこと、忘れるのか!どんだけ忘れっぽいんだおまえ!」

思わず突っ込んでしまった。

「い、いやいやいやいや。忘れてないよ?でも、何て言ったら…」

「じゃあ何だったんだよ」

「何か…ミスターって人が、パンをインスタ映えするんだって。…あ、違うっ」

な、何?

何語?

「…は?おまえ?何言ってんの?」

「い、い、いや、そうじゃなくて、あ、あ、あのっ…」



桃李から尋問するように話を聞くこと、20分。

事の真相は、こうだった。








あのあと、桃李が連れていかれた場所は、家庭科室。

何とそこは、あの狭山たち、先代ミスターのファンクラブの残党が拠点としているたまり場だった。

菜月に手を牽かれて中へと入る。

そこには…。



『お、菜月お疲れ。…で、それがパン屋の娘?ライオン丸みたいじゃね?』



ギャルが一人。

菓子を食いながら、雑誌を読んでいた。



『あれ?潤は?』

『専門学校の見学会だってー。まゆりも部活だし、私だけ』

『奈緒美、部活は?』

『今日はサボり』



自分は放っておかれ、しばらくギャル二人のダベりを聞いてたらしい。



数分後、ガラッと勢いよくドアが開いた。

あまりにも大きすぎて、ビクッとしてしまったという。



『あーーっ!ふざけんなよあの無駄にイケメン野郎ども!この借りは必ず返す!』



あの狭山が、怒りながら帰ってきた。

…あぁ、俺と一戦交えた直後だな。



『おかえり。って、どうしたの?ひょっとしてまた暴れてきたの?』

『マジ?生徒の一人や二人、殺さなかった?』

『殺すどころか、負けて帰ってきたわ!バカめ!ちきしょう…菜月!後であの男のこと、調べろよ?』

『調べるって、誰のこと』

『無駄にイケメン2号のことだ!』

『2号さん?』



すると、急に狭山はバッと振り向き、桃李のもとへズカズカとやってきた。

怒りそのままの勢いで来たから、殺されるかもしれない恐怖を感じたという。



『おい、パン屋の娘。おまえに聞きたいことがある』


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