王子様とブーランジェール
カオスな団扇のトラップ
「…おまえ、大丈夫なの?」
「全っ然、大丈夫じゃないです」
学校祭二日目の朝。
慌ただしくオープン準備に追われて賑やかになっている教室の中で。
俺は一人、教室の隅で椅子に座っている。
いや、正確には、陣太と咲哉が作り上げた見せ物小屋、胸キュンシアターという箱の横で。
昨夜の件で、みんなにも同情され、お手伝いは免除。
何もせず、ボーッとただ座っているためのだけ、仙道先生に話しかけられた。
「あ、そう…大変だったよな。昨日」
「………」
大変も何も。
大惨事だ。
昨日の前夜祭で。
とんでもない事態に見舞われた。
かつて、前夜祭の一大イベントだった『四天王デスマッチ』という催しが、昨夜、リバイバル。
しかし、狭山の悪巧みによって、その催しの参加選手に俺が選ばれてしまい。
全校生徒の前で、桃李にしつこく付きまとっていて、しょっちゅう俺とモメていたゴリラ…もとい、高瀬と公開ケンカをする羽目となった。
高瀬をボコボコにして、15分の死闘を制し、ついでに小型の狂犬にお灸を据えたのはいいのだが…。
痛い。
痛い。
身体中が…痛い。
蹴られて流血した額も。
クリティカルヒットを喰らった右の腹も。
散々ゴリラを殴った拳も。
もう、全てが痛い。
朝、起きるとそのダメージは一気に体を襲った。
いや、帰りにジムに寄ってオーナーのくどい説教を受けていたその最中から、徐々にダメージがじわじわときていたが。
そして、なぜか知らないが、昨晩やたらとピンクが俺の部屋の前で吠えまくっていた。
まるで、嫌がらせのように。
疲れて眠たいのに、うるさすぎて、寝れない。
部屋に入れて一緒に寝てやると、静かになった。
おかげで、疲れが取れてない。
今日、学校休もうかと思ったぐらい。
しかし、そんなことで学校休むとかどうなのか。
負傷した体を抱えて、とりあえず学校に来ましたとさ。
学校に来ると、周りの反応はさまざま。
殴られた箇所に腫れや変色はなく、目立った外傷は額のガーゼのみ。
それを見て「大丈夫?痛そう…」と、哀れむ人。
はたまた、昨日の公開ケンカを「すごかったぜ!」と、讃える人。
理人のように『はい、昨日はおつかれー』と、当たり障りない普通の反応の人。
高校って、いろんな人間がいますね。