王子様とブーランジェール
「先生は知ってたんでしょ」
「…え?」
「俺があの公開ケンカに出ること。秘密にしてたんでしょ」
「あー…いやー…」
先生、苦笑いしている。
嘘つけない性格でしょ。大人なのに、そこがいいんだけどさ。
「先生ひどい。俺を騙すなんてひどい。俺、騙されて悲しんでるよ。お詫びに今日の昼飯おごって」
「先生にお詫びを要求する生徒、初めてだぞ」
と、言いながらも、先生はちょっとおしゃれなジャージのポケットの中に手を入れている。
そして、それを俺に手渡した。
PTA主宰バザーのうどんの食券だ。
「めんつゆに癒されて機嫌直しなさい」
「はい…」
素直に返事をしてしまった。
「そういや、ケガとかないの?」
「昨日、ジムに近くの診療所の先生が来て、簡単に全身診てもらったから大丈夫」
今日の昼飯は、うどんか…。
もらったチケットを、ズボンのポケットに入れる。
先生は俺のもとを離れて教室を出ていってしまった。
またひとりぼっちになったので、一息ついて、椅子に座り直す。
理人は、負傷した俺の分まで力仕事に徹しているらしく、なかなか教室に姿を見せない。
そんな俺の横では、陣太と咲哉が見せ物小屋…もとい、胸キュンシアターの準備でガタガタと物音を立てていた。
「夏輝、今日はそこに座っているだけでいいからなー?」
「ホントホント。昨日は大変だったもんなー?あんなに強いだなんて、俺若干ブルったけど。スピニングバックキックが綺麗すぎて」
二人とも、妙に優しすぎるのは、気のせいか。
昨日のバトルを見て、本当にブルっちゃってなんかいたりするとか?
俺達、友達だよね…。
だけど、座っているだけってなんか暇。
どちらかといえば、せっかちな俺。
本当は、何か仕事をしていないと気が済まない。
「…俺、やっぱ何か手伝うわ」
そう言って、席を立つ。
しかし、負傷した右の腹がズキッとした痛みが走った。
いたたた…。
また座り込んでしまった。
「ほらほら。座ってていいって言ったじゃん。塩梅悪いなら机も用意する?」
俺の様子を見ていた咲哉がそこらへんにあった机を、俺の前に持ってきた。
「ありがと。これなら事務仕事ぐらい出来るな」
「この縁日カフェで何の事務仕事があるの。金の計算?あんた、働くの好きだねー」