王子様とブーランジェール
「あれ?夏輝様、耳感じるのぉー?」
「感じるとか、何とかって…おまえ、男だろ!」
耳に息を吹き掛けられた…男に!
女子力の高い肉まんのような…男に!
パッと見、品のある女子だ。合唱部とかにいそう。
でも、俺はさっき見たヒゲの青い剃り跡を忘れられない。
「やぁーん!夏輝様、感度高いー」
感度?感じたのではないわ…!
声も、よく聞くと低い。
男の裏声?みたいな。
「私ぃー、1年8組の山田フリージアって言いまぁーす」
「フリージア…」
それ、源氏名でしょ?源氏名だよね?
あなた、ニューハーフパブとかに、いるよね?!
俺達と同じ学校、学年に、女子の制服を着ている男子がいるだなんて…。
そして、そいつはなぜか同性の俺を様付けで呼んでいる。
もう、カオス過ぎる…。
カオスだ!
「は、腹減った…」
カオス過ぎるあまり、もうどうしていいかわからず、とりあえず空腹で充電切れした。
そう言い残して、机にパタッと顔を伏せる。
「きゃあぁぁーっ!夏輝様が腹、腹減ったっておっしゃってるわぁーっ!…誰か!誰かシャトーブリアン持ってきてちょうだいぃっ!」
シャトーブリアンか…。
持ってこい!で、簡単に出てくるのかよ…。
食ってみてえけど、今はそんな気分じゃない…。
俺の昼飯、PTAのうどん…。
めんつゆに癒されたい…。
(ああぁぁ…)
うちわにイラストを描くこと、三時間半。
ようやく解放された。
もう昼の一時になり。
俺が『腹減った…』と、呟いたら。
シャトーブリアン…は、出てこなかったが。
『…夏輝様のランチの時間よぉーっ!…この長蛇を作ってるメスたち、撤収なさいぃっ!』
あのガス室女・小笠原麗華が列を作っている女子たちに向かって怒鳴り出す。
もちろん『えぇーっ?!』と、不満気な女子たち。
ブーブーと文句が次々にわいてくる。
だが。この女は。
『…おだまりなさいぃっ!夏輝様が低血糖で倒れても構わないっていうの?あんたたちぃぃっ!』
教室内に響き渡る、怒声。
一気に場内静まり返る。
『よくお聞きなさいっ!指示に従えない輩は、我が家のガス室にぶち込んでやるわよっ?!…この続きは午後2時に再開。またお集まりなさいぃっ!』
『ガスは美容ガスでぇーす』