王子様とブーランジェール
二人でイラストの押し付け合いをしながら、左に曲がって階段を上ろうとした時。
「おっ」
「あ」
偶然にも、クラス委員長の黒沢さんと鉢合った。
黒沢さんは、段ボールをかかえて階段を上っている最中だ。
「黒沢、これ何?」
そう話しかけながら、理人は黒沢さんからその段ボールをさりげなく奪い取る。
「和田くんありがと。生徒会室に取りに来いって言われてさ。先代ミスターからの差し入れみたい」
「先代のミスター?」
「うん。全校生徒みんなにひとつずつ差し入れだって」
「へぇー…」
何だなんだ。
ミスターって、こんなこともやるのか?
全校生徒みんなに?
中は何か知らんが、だいぶ金かけてんな。
何も気に止めず、再び教室へ歩き出そうとした。
…が。
(…ん?)
何やら、フッと匂いがした。
これは…嗅いだことのある、お馴染みの匂いだったりする。
ちょっと、これ…。
辺りを見回す。
しかし、まさか。学校内で…?
「夏輝、どうした?」
「いや…」
理人が歩き出すと、また匂いがした。
幻臭ではない。
「理人…その箱、パンじゃね?」
「は?またまた」
「いや、パンだ。間違いない。パンダフルのパンだ」
「嘘」
理人の持っている段ボールの蓋をそのまま開ける。
すると、匂い全開。
予想的中。
ああぁぁ…良い匂いだ。
中には透明の袋に個別包装されたクロワッサンが、たくさん入っていた。
本当に予想は的中で、袋にはパンダフルのロゴシールがひとつずつ貼ってある。
クラスの人数分?40人分?
40個もあるのか!
何で愛しいパンダフルのクロワッサンがここに、こんなに…!
ヤバい。この箱、パラダイスだ。
中に入りたい…!
「竜堂くんの嗅覚すごいね…」
「…これ、教室持っていかなきゃダメ?ダメ?」
「ダメに決まってるだろ。夏輝、ひょっとして独り占めする気?」
地獄の後は、天国。
午前中、イラスト描いて頑張ってよかった…!
男子に耳に息を吹き掛けられても、めげないで耐えてよかった…!
ご褒美、待ってた…!
思わず、箱にしがみついて、うっとりしてしまう。
「ああぁぁ、幸せ…」
「何かすごい機嫌良くなったね。竜堂くんって単純」
「夏輝はB型だからね」