王子様とブーランジェール
あれから教室に戻り、誰よりも早くミスターからの差し入れであるパンダフルのクロワッサンに食い付き。
午後2時から、営業再開。
クロワッサンで充電されたので、再びピンクのイラストを描いて描いて描きまくる。
クオリティも向上。
一時間ぐらいでようやく列も途切れてきた。
ようやく、イラスト業終了…。
すると、桃李がこっちにやってきた。
「夏輝ありがとー!ようやく狭山さんにも律子さんにもメッセージ書いてもらえたー!」
そう言って、うちわを見せに来た。
あぁ、よかったね。
俺のイラスト地獄の苦しみも知らず…。
うちわを見てみると、狭山からのメッセージには『たやすく騙されるなバカめ!』と、書いてあった。
お約束…。
しかし、明日。この言葉が本当になってしまう騒動が繰り広げられるのだった。
そういや、ミスターからの差し入れって…。
と、いう話を振ると、桃李から驚きの事実を聞かされる。
ミスターからのクロワッサンの注文。
1300個?!
「うん…休みの人も返上でみんなで朝から大忙しだった…」
そりゃ、パンダフル総動員だ。
「オーブン足りないから、近くの製菓専門学校のオーブン借りたり、私も朝から手伝ったんだけど、学校あるから途中で抜けてきちゃって…」
「マジか…。その無茶苦茶な注文を受ける、苺さんが意味わからない…」
「本当に…。お母さんは一人で喜んでた。お父さんやみんなはげっそりしてたよ。今、ちゃんと営業できてんのかな…」
桃李に心配されるようじゃ終わってるぞ…。
俺は思わぬカタチでクロワッサンを食べることが出来たので、万々歳だが。
「あーあ。一個じゃ食い足りねえ。帰り、寄ってくかな」
「ホント?じゃあ私のあげる」
そう言って、手に持っていた袋に入ったクロワッサンを俺に渡してくれる。
「え、マジ?」
「だって家にあるし」
や、やった…!
午後の分のご褒美、ゲットだ!
「悪いな。ありがと」
「いいのいいの」
早速、袋を開けてかじりつく。
もう、顔がにやけるわ。
「美味しい?」
「うまいって…」
当たり前のことを聞くんじゃない!
桃李が隣にいて。
一番大好きなクロワッサンを食べる。
イラスト地獄だろうが、カオスな事態だろうが。
こりゃもう幸せ。
…そんな気分に浸っていたが。
実は、ここからもう一騒動が待ち構えていることを、今の俺達はまだ知らない。
明日は、学校祭、最終日。