王子様とブーランジェール
桃李の母と、このクソガキ美奈人の母が従姉妹同士。
で、再従姉弟。
曾祖父母が一緒、ということだ。
桃李とその家族は、5年前にこの地に来るまでは道東の方に住んでいたが。
しかし、いろいろ事情があってパン屋を開くことになり、美奈人の母である従姉妹を頼りにこの札幌にやってきた、ということらしい。
で、この美奈人は現在小学三年生。
かつて俺達が通っていた星天小学校に通っている。
住んでいる地域も町内会も一緒なため。
普通に地元を歩いていたら、そこらへんでよく見かける。
この間、友達と公園で鬼ごっこをしていた。
ただのガキならまだいいのだが。
「理人パイセン!俺、こないだちびっこの試合に出してもらえたぜー!シュートひとつきまったー!しょしんしゃにしてはすごくね?すごくね?」
「へぇー。やるじゃん」
このクソガキは、理人にはなついている。
何でも、美奈人はこの春からミニバス少年団に入ったらしい。
そこは、理人もかつて在籍していたミニバス少年団で、美奈人は理人のことを大先輩として崇めている。
だが。
「…おぉっ!竜堂ジュニアじゃねえか!おまえもここのこーこーせーだったの?おまえ、サッカーでとまこまいだか内地だかに行ったんじゃなかったっけ?」
おまえ?
竜堂ジュニア?
母さんと同じ呼び方で呼ぶな!
なぜか、俺のことは、別扱い。
先輩として崇めているどころか、目線一緒。
同等のレベルに思われているようだ。
「特待生入学はやめたんだよ。普通に公立受験したんだ」
「へぇー?もったいねー。さいのうはちょうほうしなさいってさ」
何かこいつに言われると、ムカつくな…!
才能は重宝しろ?
小学生のくせに、意味わかってんのか?
この美奈人とかいうクソガキは。
何だか、変に達観しているっていうか、やたらと弁が立つというか。
マセてるって、可愛いもんじゃない。
何かこう、おっさんくさい。
喋り方や仕草が、毎晩居酒屋で呑んだ暮れてるおっさんのような感じなのだ。
かつて、元カノと歩いているのを目撃された時は、たいそう冷やかされた。
『よう!竜堂ジュニア!そのお姉ちゃんとどこまでいった?Aか?Bか?Cか?』
スキンシップの度合いをアルファベットで表現するな。
おまえの母ちゃん以上の世代の話だぞ。