王子様とブーランジェール
あれから30分ほどで、小学生の群れはようやくお帰りになられた。
疲れた…。
クソガキ美奈人だけならまだしも、あの女子小学生たちの相手が大変だった。
一人ずつ、一緒に写真を何枚も何枚も撮った。
質問責めにもあった。
『おにいさん、かのじょいるのー?かのじょとぎれないしょー?』
『いま、かのじょなんにんいるのー?ふたり?さんにん?たくさんいそうだよねー』
『しょうがくせいはきょようはんいない?』
バカヤロー。
小学生のくせして、何て質問をするんだ。
彼女いないし、そんなに股かけねえし、ロリコン趣味でもない。
しかも、桃李の目の前で、際どい質問はやめてくれ。
俺はそんなに女をたくさん囲っているクソヤローに見えるんだろうか。
それとも女子小学生、高瀬と同じレベルの発想なのか?
「王子様は小学生さえ虜にするんですか?」
ケータイをいじっている理人は、画面から目を離さずに嫌味のひとつを突っ込んできた。
「うるっせえな。おまえも写真お願いされてただろうよ」
「夏輝みたいに、質問責めはされてませーん」
ちっ。誰かこいつに突っ込んでくれや。
俺以上に、女囲ってる話が出てくるのはこの和田理人という男だっつーのに。
テーブル席に座ったまま、とりあえずケータイをいじる俺達。
すると、辺りが急に騒がしくなったので、思わずそっちを見てしまった。
「わぁー!優未可愛いー!」
「いいでしょー?」
「浴衣?慎吾もお揃いなの?!」
「お祭り気分味わっていこうぜよ!」
そこには、浴衣姿の男女が。
松嶋と柳川だ。
柳川は黄色地に朝顔柄の浴衣で、松嶋はカーキ色の浴衣に下駄姿だ。
おっ。いいな。浴衣。
野郎はともかく、女子の浴衣姿は結構好き。
髪もアップにしていて。
ちょっとテンション上がる。
「へぇー。縁日だから浴衣?」
そのうち、松嶋は柳川と共にこっちにやってくる。
二人して、その浴衣姿を見せびらかしてきた。
「どうよどうよ。涼しくていいぜぃ?」
松嶋、浴衣似合ってんな。
だが、首や腕のじゃらじゃらアクセサリーはそのまんまだ。
外せ。輩みてえだ。
「可愛いでしょー?どう?」
「柳川の浴衣いいな。浴衣女子、結構好きだなー」
「もうー!ホント?一緒に歩く?」
「竜堂のダンナは浴衣に萌えるのかね?」
萌えるって…いや、萌えるね。そこは正直に。
すると、やはり松嶋だ。
突拍子もないことを言い出してくる。
「じゃあ、俺達と一緒に浴衣着てわたあめ売りに行こうぜぃ?」