王子様とブーランジェール




「竜堂くーん!わたあめ追加持ってきたよー!」

「…ええっ!」

「今度はわたあめソーダも持ってきたよー!お願いねー!」



クラスメイトの菊地さんが、岡持ちにたくさん乗せたわたあめたちを、また新たに持ってきた。

…え?え?何で?!

わたあめ無くなるの、見えてた?



いや、恐らく。



「浴衣姿のイケメンが売るわたあめとソーダ、ひとつ100円ですぜー!まだまだあるよー!」



松嶋が連絡したのだろう。

その証拠にアイツは、スマホ片手に客を呼び込んでいる。

まるで、キャバクラの客引きのように。

松嶋…コラァ!



しかし、怒りに震える間もなく。



「…わぁ!何このわたあめ乗ってるジュース!可愛いー!」

「私にひとつくださぁーい!」

「…え?私にも私にも!」


わたあめソーダがよほど珍しかったのか。

どんどん人が寄ってくる。

3つしかなかったわたあめソーダはすぐに無くなった。

しかし、ご所望のお客様は他にもいたようで。

「え?私もイケメンわたあめソーダ欲しかったー!」

イケメンわたあめ…そんな商品名じゃない!作るな!

「私も!ないの?」

「え、あ…すぐ持ってきますっ!」

菊地さん、教室に向かってダッシュ。

ここは一階。四階まで走らせてごめん!



気がつけば、周りは人だらけになっていた。

ごった返しているワケではないのだが、とりあえずループが途切れない…!

い、いつまでやんの?

菊地さん、ソーダたくさん持ってきちゃった。



気づけば、もう正午なんてとっくに過ぎていて。

あぁ、腹減った…。

昨日と同じ展開…。

ああぁぁ…。








(疲れた…)



午後1時。

わたあめ移動販売から、ようやく解放される。

わたあめとソーダ、しめていくつ売ったかわからない。

この真夏の気温の中、飲まず食わずで何時間も売り子に徹するなんて、疲れた…。




とりあえず、三人で教室に戻る。



「二人揃って100は売れたよね」

「それ以上行ってんじゃないか?」

「お疲れなのだ!イケメン二人!」

松嶋はそう言って俺達二人の背中をポンポンと叩く。

まあ、おまえはただ客引きしていただけで、写真撮られたり質問責めに合ってないもんな?

疲れてないもんな。



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