王子様とブーランジェール
「相変わらずチャラチャラしてるんですね、夏輝くんは?学校離れてちょっと目を離すと、何をやってるかわかったもんじゃありません?」
「おまえに監視されることなんか何にもねえ。学校では勉強も部活も真面目にやってますー?家でだって、部屋に引きこもって勉強しかしてないおまえと違って、料理洗濯掃除にピンクの世話をやってる俺は、おまえなんかより全然マシ」
「人には得手不得手があります」
「得手不得手?何もしないから出来ないんだろうがバカヤローが!」
くっ…この女!
どの誰よりもイライラすんな?!
何も出来ない女のくせに、勉強が出来るだけで何でも出来るような偉そうなツラをしてるのが腹立つ…!
この淡々とした喋り方が、なお怒りを煽る。
お互い睨み合う。
周りどうこう気にしてらんねえ。そのぐらい怒りをそそられるぞ…!
「何やってんの。二人とも。ここは竜堂家のリビング?」
俺達の間にぬっと割って入る。
デカい物体…じゃなくて、理人。
おまえは衝立か。
「秋緒、久しぶり」
理人は、俺を背に秋緒に話しかける。
ちっ。さりげなく仲裁しやがって。いつものパターンか。
「お久しぶりです、理人くん。理人くんも浴衣ですか」
「そう。似合う?」
「理人くんも胸元開いてますよ。はしたないです」
「今日は暑いし?」
長い付き合いの理人に対しても淡々とした喋り方をしている。
でも、理人はそんな秋緒の喋り方に慣れているのか、気にする様子はなく普通に会話していた。
「秋緒、この浴衣姿の俺と一緒にクラス回りする?」
「いえ。すでに桃李と回り終わりましたので結構です。もう帰ろうと思ってましたし」
「あ、そう。残念」
「はい。それでは帰ります。さようなら。桃李、行きましょう」
「あ、うん…」
そう言って、ヤツは俺達を背に、スタスタと廊下を歩いていく。
桃李もその後を追いかけるように行ってしまった。
帰れ!帰れ!
最後まで淡々としやがって。
おまえに人間の心はあるのか。
本当はロボットなんじゃないかと思う。
「あ、秋緒、俺もお見送りするよ」
更に理人も二人を追いかけて行ってしまう。
お、おい!理人!
そんなロボットみたいなヤツ、お見送りする必要ないぞ!
って、あぁ、もう。