王子様とブーランジェール
そんなことになったので。
朝練はないが、朝練がある日と同じ時間に起床する。
家族に「あれ?』と、ビックリされながらも、いつもと同じように朝飯食べて、支度して出ていく。
現在は7時15分。
7時30分が約束の時間だけど。
あの桃李のことだ。
二度寝すんなよ?と念を押したが、間違いなく二度寝してるはず。
それを起こす時間も含めて、少し早めにパンダフルへ行くことにした。
しかし…。
「おっ。お疲れ」
店の端にある、神田家の住居のインターホンを押そうとした時。
店の中から、理人が出てきた。
「理人!」
「いやー20分前に来てみてよかった。桃李、やっぱり二度寝してた。今、部屋行って叩き起こしてきたから」
20分前に!
俺より5分多く見積もりやがって!
しかも…部屋まで行って、桃李を起こしてきた?
このやろっ…!
「…あれ?何か悪いことした?」
俺がイラッとしたことに気づいたのか。
理人はニヤニヤしながら、こっちをみている。
ちっ。
「悪いこと?大アリだ!…っていうか、何で昨日おまえが先にパンダフル来てんだよ!」
昨日から引き続き、この男には何でも先回りされて頭にきている。
理人は鼻で笑い、店の中に入っていった。
追いかけるように、俺も一緒に中に入る。
「何でって?俺だって桃李が心配だったし。しかもあの三年のところにパン焼いて持っていくとかって、何あるかわからないから、着いていくことにしたんだよ」
「俺、おまえのついで扱いされてんだけど!どうせだからって、おまえのついで!みたいな!」
「はぁ?八つ当たり?」
シラッとした理人の顔を見て、ちょっと気まずくなり、勢い殺された。
しかし、心の変なモヤモヤが治まらない。
「…あのよぉ?何回も聞くけど、おまえ、ひょっとして、桃李に惚れていたりする?」
今度はため息をつかれた。
「それ、高校入学してから30回ぐらい聞いてる。で、30回全部同じ答え。俺は桃李のこと好きだけど、夏輝とは違ってラブじゃない。ライクの方」
「…ホントに?」
「何疑ってんだよ。夏輝はマジで疑り深いな。それでもって嫉妬深い。そんなにダチを恋敵にしたいの?」
「…だって、おまえイケメンだから。優しいし」
「おまえに言われたかないんだけど?『星天高校の新しい王子様』?」
嫌みくさっ…。