王子様とブーランジェール



「夏輝くん、何で着いて来るんですか」

「…おまえがちゃんと帰るかどうか確認するんだよ!」



だなんて、流れで着いてきてしまったのは言うまでもない。


3年のフロアに一人で置き去りにされるのはちょっと…俺にとって、ここは鬼門だからな。

また女豹だのゴリラだの小型犬だのと出くわしても困る。



毎日家で顔を合わせている俺とは違って、久々の再会である三人は、和気あいあいと談笑しながら歩いている。

それを一歩後ろを歩きながら、見守る。



「秋緒は新しい高校生活どう?俺達いないと寂しいんじゃないの?」

「いえ、それなりにやってますよ。毎日の授業も自然研究会も充実しています」

「自然食品研究会?」

「いいえ、自然研究会です。主に登山をしたり、キャンプをしたり、野鳥や植物の観察、土壌、水質調査などを行います」

理人、そのネーミングじゃあ、怪しい団体間違いなしだろ。

スーパーオーガニックフード?

いや、秋緒の説明を聞いても、自然研究会も十分怪しい団体だけどな。

水質調査は業者にやらせろ。



正面玄関口まで見送る。

「夏輝くん、先ほどの暴言、全てお父さんに密告しますからね?」と、捨て台詞を吐いてヤツは帰った。

暴言?あれが暴言?

どこらへんが暴言?

親父に怒られても怖くねーし。






「あー…やっと帰った」


長い長いため息が出た。

ったく。おまえのいない安住の地である高校に乗り込んできやがって。

「相変わらず仲良しだな。双子」

理人は笑ってるが、笑い事でない。

仲良し?どこがだ。

どう見ても戦争中だっただろうが。

「秋緒の相手は疲れるんだよ。桃李、よく友達やってんな」

「そんなことないよ。秋緒は楽しいよ?」

「おまえも変わってるからな…」



三人で歩きながら、教室へと向かう。

昼下がりの午後の時間となっていた学校。

あんなに照りつけて窓から射し込んでいた日差しも、太陽の高さが低くなった今は、穏やかな光に変わっていた。

公開終了の時間が近付いているからか、一般客の姿も先ほどよりは少なくなっている。

間もなく終了、っていう雰囲気だ。



「二人とも、浴衣いいね」


俺と理人の間を歩く桃李。

俺達の浴衣をチラッと見て、呟いていた。



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