王子様とブーランジェール



「………」

何も、言えない…。

そんな沈黙にかぶせるように、更なる忠告を受けた。

「状況が変わってるんだから、本当に何かしないと誰かに持ってかれるよ?」

「わ、わかってる…」

「まあ、俺としては?夏輝が失恋して泣く姿を見るのもアリかな?って思い始めてきたんだけど…」

「ば、バカヤロー!何てことを!」



状況が変わってる…のは、気付いている。

天パと眼鏡やめました。の効果は思った以上にすごい。

実は、昨日のあのカオスなうちわを見たとき、本当は気が気ではなかった。

高瀬や蜂谷さんだけではない。

こんなに?こんなに、桃李にアプローチしてくる男子がいたのか?

今までひっそりと生きてきたヤツが、天パ眼鏡をやめただけで、こんなにも注目されるようになった。

これは、もう…うかうかしていられない。



早く、何か行動に踏み切らなければ。

早く…想いを伝えなくては。



本当に、泣いてしまう事態になるかもしれない。



本当に、どうするか。



(………)



本当に、何しよう…。



「…ほら。どうする?」

「…花火大会誘う。浴衣見たいから」

「ぶっ。下心丸出しだなー。その理由」



まずは、デート。

鉄板。

…で、いいんだよな。



浴衣姿の桃李と、花火大会か…。



その模様を、想像する。



可愛いまとめ髪のうなじ…。

で、帰りは俺んちに来る。



(………)



恥ずかしすぎて、その場にしゃがみこんで顔を伏せた。

小便器の真ん前で。



…あぁっ!

ダメだ!ダメだ!

考えただけで、恥ずかしすぎる!

そして、何で俺は桃李を自分の家に連れて帰りたがるんだ!

違う意味で恥ずかしすぎる!



「デートすら誘えなさそうだな。情けない」

「…うるっせえな!絶対誘う。誘ってやる。来週末だろ?」

「へぇー?言ったな?俺に付き添い頼むとか無しね。二人で行けよ?」

「当たり前だろが!むしろおまえは来んな!」



バカにすんなよ?俺だってやる時はやるんだ。

絶対、誘ってやる。



何だか勢いで決めてしまったが…そうでもしないと動かないのがなんともイタイところだ。



着替え終わり、松嶋から借りた浴衣も簡単に畳んで袋に収める。

二人で、並んでトイレから出た。



その時だった。




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