王子様とブーランジェール



このセリフと特徴のある声…狭山!

なぜ俺のケー番知って…てなことは、問題ではない。

そっちからコンタクト取ってきたか。



「…どこにいる?ひょっとして、体育館か?」



すると、「クックッ…」と、いつもお得意の笑い声が聞こえてきた。

しかし、その向こうの音が漏れて耳に入ってくる。



『あーっ!あぁっ!やめてえぇぇっ!ぎゃあぁぁっ!』



この悲鳴…桃李だ!

一緒にいるのか?!



「…桃李!…狭山、桃李に何をしてるんだ?!」

電話の向こうの狭山は、まだ笑い続けている。

ちっ…笑ってばっかいるんじゃねえ!



『…声、聞かせてやるよ?』



電話の向こうで、がさがさと音が聞こえる。

狭山が『電話、竜堂だぞ?』と、呟く声がかすかに聞こえた。



『夏輝いぃぃーっ!助けてえぇぇっ!!』



桃李!

悲鳴、デカっ!

声デカ過ぎて、耳の中が痛い。



「と、桃李!無事なのか?」

『大丈夫じゃないいぃぃーっ!制服脱がされたあぁーっ!うわああぁぁーっ!』



な、何っ…!

服、脱がされた?!

電話の向こうの桃李の、うわぁーん!と泣いているような声が聞こえる。




「…桃李、どこにいる?どこにいるんだ!」

『体育館ですよーんと、バカめ!』

急に狭山の声が割り込んできて、一瞬ビックリした。

…って、狭山あぁっ!

『何だ何だ竜堂?…まさか、私を殺したくなっているんじゃないだろうな!とうとうか!』

狭山の笑い声はやがて、高笑いのようになっていた。



もう、許されない。




「あぁ…殺してやる」




『ほう!それは楽しみだぞ!』

声がワントーン上がった。なぜそんなに嬉しいんだ。

「桃李に手を出しやがって…許されないわ!この狂犬が!殺してやる!」

『じゃあ、体育館に来い。思う存分、殺し合おうではないかバカめ!』

怒鳴り散らした勢いそのまま、狭山はブツッと電話を切る。



だが、電話は切れたが、怒りは治まらない。

ふつふつと込み上げてきて、スマホを握る手に力が入ってしまう。

スマホはミシミシと音をたてていた。




狭山のヤツ…!

とうとうやってくれたな…?

桃李の服を、脱がしただぁ?



許されないわ…!!




俺は、女には手を挙げないと頑張ってきたが。

桃李に手を出したとなれば、話は違ってくる。



場合によっては…殺す。



狭山の思惑にハマってるとか、そんなのはもう関係ない。

桃李を傷つけた時点で、それはもう、ない…!




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