王子様とブーランジェール
実は、理人とこのような口論になることは、しばしばある。
だいたいが桃李が絡んでることなんだけど。
口論はまだ続いていた。
「…前から言おうと思ってたんだけど」
「あぁ?」
「夏輝、これからどうするつもりなんだよ」
何か…改まってんな。
「…は?これからって?…ヤンキーにパン渡しに行くとかじゃなく?」
「今やることじゃなくて。この純情ラブストーリー、どうするのかってこと」
口論ではなく…お説教になりそうだ。
「…何だよ急に」
「別に。ただ、五年間もストーカーみたいに想い続けて、そこからどうすんのかなってさ!」
「す、ストーカー!」
かなりグサッときた。
お、俺…ストーカーなの?
「もしくは恋愛チキン?」
「ち、チキン!」
「夏輝、想い続けていることが、必ずしも美学とは限らない。そんな時代、だいぶ前に終わってんだよ」
「は、はぁ?!」
「余裕ブッこいて何もしないで、ただ見守ってるだけなら…そのうち、取られるぞ?」
理人はまた鼻で笑った。
ま、マジ…?
急に何のお説教!
ストーカーとか、チキンとか言われ、言われ放題。
んでもって、『取られるぞ?』って…!
「急に…どした?」
「…はぁ?!」
「理人、何でそんな急に怒ってんの」
いつもより、理人がどこか感情的になっていたような気がした。
語気も強めだし、いつもはこう冷静にチクチクと刺してくる感じなんだけど。
違和感を覚えて、逆に心配になった。
もしかして…。
「…おまえ、やっぱり桃李に惚れて…」
「約31回目!」
しかし…。
『想い続けていることが美学とは限らない』
…いや、そうでしょうね。
『余裕ブッこいて何もしないで、ただ見守ってるだけなら、そのうち取られるぞ?』
あぁーっ!もう!
わかってるそのぐらい。
ストーカー、恋愛チキン…あぁ。
言われても、反論できない。
別に、余裕ブッこいているワケじゃない。
ただ見守ってるわけでもない。
単に…どうしていいかわかんねえだけだ。
考えれば考えるほど、迷宮に入ってしまい。
ため息が出る。
「どうしていいかわかんねえ理由、教えてやろうか?」
顔をあげると、俺の前にはいつの間にか理人が立っていた。
距離が近い。
「え…」
「単に、フラれるのが恐いだけだ」
「…んだと、てめえ!」
「あと、こじらせ過ぎ」
「それは…」
…そうですよね。