王子様とブーランジェール
遠くからその様子を見守る。
そして、話していた女子スタッフがいなくなり、菊地さんが一人になった。
今がチャンスだ。
「…あれ?竜堂くん?」
目の前に姿を現すと、向こうから声をかけてくる。
不自然だよな?催しの最中に突然裏方に現れるのだから。
「こんなところで、どうしたの?」
不思議そうに様子を伺ってくる。
「…あの、3年の狭山ってここにいる?」
何も知らないフリをして、それとなく聞いてみる。
「狭山さん?何で?」
「いや、体育館に来いって言われたんだけど…」
来いって言われたのは事実だ。間違ってはいない…。
すると、菊地さんの返答に、困った事態にさせられる。
「狭山さんが?…あれ?来いったって…」
「いないの?ちょっと呼んできてほしいんだけど」
当たり障りなくどころか…気持ちが逸るため、ストレートに聞いてしまった…。
「いや、ちょっとそれは…だって、狭山さん、もうすぐ出番…」
そう言って、手に持っていたプリントを慌ててめくっている。
出番?
まさか…狭山もショーの出演者?
「…え?狭山、ショーのモデルなの?」
「あ、うん。そうなんだ。だから、出番終わったら呼んできてあげれるけど…」
困った。
まさかとは思ったが、ヤツ自身が出演者?
その間、桃李はどうなっているんだ?
お仲間に囚われの身となっているのか?
その時、ひとつの推測が頭を過った。
まさか、自分の出演の場を借りて、桃李を晒し者にするのでは…?
…だとしたら、もう時間がない!
「菊地さん、桃李は?」
「え、え?」
突然の俺の質問に、菊地さんは目を見開いていた。
…何か、知ってるのか?
もう時間がないと思うと、グダグダやってる場合じゃない。
「…中に、いるんだろ?」
「あ、うん、いることはいるんだけど…あっ!ちょっと!」
中にいるとわかるとすぐに、ドアに手をかける。
しかし、菊地さんに立ち塞がれてしまう。
「だ、ダメ!入っちゃダメ!中では着替えもしてるし!な、何で?!」
「桃李が中にいるんだろ?!」
「な、中にいるけど!で、でも桃李ももう準備していて、出番ももうすぐで…」
「…は、はぁ?」
出番?何の?
すると、ゴタゴタしているのを聞き付けたのか。
俺達のすぐ傍のドアが、ドカッ!と蹴られて揺れた。
『…竜堂、コラァー!!』