王子様とブーランジェール
この声は…狭山か!
中からドアを蹴りやがったな?!
俺がここにいることを嗅ぎ付けたか!
そうとなれば、話は早い。
出番が近いんだか何だか知らないが、直接対決だ。
殺してやる!
「狭山このっ…出てこいやコラァ!」
この大音量の会場の中にも関わらず、ドアに向かって怒鳴り散らす。
すると、引き戸のドアが少しだけサッと開いた。
わずか5㎝ほど。
その隙間からは、狭山の片目だけが見えた。
どぎついアイメイクをしており、一瞬ゾクッとしてしまったが。
「クックッ…本当に来やがったか。しかし、一歩遅かったぞ?何やってた?」
「…何っ!」
「クックッ…大方、恥ずかしい格好と聞いて、神田のエロい姿を想像して悶絶しておったのだろうがこのバカめ!」
「なっ…」
エロい姿は想像したが…貝殻ビキニに悶絶しとらんわ!
隙間の向こうの狭山は、再びクックッ…と笑い始めた。
なぜ、いつもその笑い方なんだこのヤロー!
「竜堂、一足遅かったな。これから神田の恥ずかしい格好を全校生徒の前に晒してやる。せいぜいランウェイの傍で指を加えて見ているがよい!」
「…おまえこの!桃李を返せ!」
わずかに開いていたドアの隙間に、足を突っ込み、指をかける。
力任せに開けてやろうと思ったが…開かない!
何か、棒で突っ掛けてあるのか?
「何を侵入してこようとしておる!おまえは痴漢か!ポリ呼ぶぞ!バカめ!」
「おまえこそ!誘拐拉致してんだろうがよ!…開けろ!…桃李!」
ドア開閉の攻防が繰り広げられていたが、その隙間から、急に金属バットの先が顔を出す。
一気に顔面に向けて、突き出してきた。
なっ…こんな隙間から、金属バット?!
どこまでも登場するか!
「…うわっ!」
突然、金属バットの突きが襲ってきて、思わず後退してしまう。
手と足を離してしまった。
マズいと思い、再び手をかけるが、すでに遅く。
ドアがピシャッと閉められた。
ちっ…この!
ドアの向こうでは、狭山の「フハハハハ!」と、魔王のような高笑いが聞こえる。
なぜ、どこまでも悪者の笑いなんだ。
再び、ソロッとドアが数㎝開いた。
さっきより、狭いが。